第299話『情熱④愛が確かなものになるまで…』
冬の光は、人の心の影を長く伸ばす。
触れられない想い、胸のざわめき、言葉にならない黒い熱。
そんな揺れの中で、龍賢は“愛が姿を変える瞬間”を見つめていた。
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数日後、露葉がよく行くカフェに足を運ぶ。
店の中、従兄弟と楽しそうに微笑む露葉の姿が見える。
灯りに照らされる彼女は、揺れる水面に映る月のように美しく、ただその光景だけで胸の奥にざわめきが走る。
笑顔、声、視線――それが他の誰かに向けられている。
その事実が鋭く胸に突き刺さり、黒い渦が押し寄せる。
誰にも渡したくない。
そう願うほどに、胸の奥が焼けるように熱くなる。
触れたい、奪いたい――でも、触れれば壊れるのは露葉ではなく自分だと、わかってしまう。
「入らないの?」
不意に声がして振り向くと、アスが立っていた。
龍賢は咄嗟に答える。
「あぁ、通りかかっただけだから。」
アスはじっと龍賢を見つめ、その視線があまりに居心地悪くて、龍賢は短く「なに?」と返す。
アスは答えず、窓に指先を添え、店内をぼんやりと見つめた。
しばらく沈黙のあと、ふーっと息を吐き、独り言のように呟く。
「タケルが今日は病院でね。お母さんとお父さんは一緒に行けなかったから、あの人に送り迎えを頼んだみたい。…で、今その帰り。兄ちゃんにも電話したみたいだけど出なかったって。」
龍賢は横顔を見つめる。アスは視線を窓から外さず、淡々と続ける。
「ボクは病院のあと、遊ぼうって誘われて…ここが待ち合わせ場所。お姉さんは偶然いただけ。」
やがてタケルが現れ、露葉と従兄弟の間にすっと座る。その姿に、龍賢の胸のざわめきはさらに深く揺れる。
そのとき、アスが小さな声で言った。
「兄ちゃん。お姉さんの眼になってみたら、何かに気付くかもしれないよ。」
その言葉は、胸の奥に重く沈んでいき、黒い熱の中に一筋の光を落とすようだった。
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愛は時に、自分自身の影を照らし出す。
守りたい気持ちも、独りよがりな痛みも、すべて同じ源から生まれる。
龍賢の胸に落ちた小さな光が、これからどんな形に変わっていくのか――
静かな余韻だけが、そっと未来を照らしていた。




