第298話『情熱③愛が確かなものになるまで…』
冬の気配が深まるころ、
龍賢の胸には、説明のつかない熱が少しずつ形を取り始めていた。
それは愛とも不安ともつかないまま、彼を静かに追い詰めていく。
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次の日、彼女の働く骨董品屋へ向かう。
街路樹の影が伸びる冬の午後、冷たい空気を吸い込みながら歩くたび、心の中で波紋が広がる。
店に入ると、露葉が接客をしていた。異性と話すその姿を、ただ遠くから見ているだけで胸の奥がざわつく。
笑顔、仕草、指先、視線――どれもが自分の胸を掻き乱す小さな嵐となる。
話し終えたお客が去った後、龍賢は小さな声で訊いた。
「親しそう…だれ?」
露葉は穏やかに答える。
「常連のお客さん。」
その言葉に、龍賢の心は黒くゆらめいた。
『露葉のことを好きそうだった』、と自分にだけ聞こえる囁きが胸に刺さる。
露葉はぼんやり微笑み、静かに言った。
「そうかな…。龍賢が私をすごく好きなことは感じるけど。なんちゃって」
その柔らかい言葉と笑みは、光の粒のように胸に落ち、同時に焼けつく熱を呼ぶ。
抑えきれず、龍賢は彼女を抱きしめた。
首筋に顔を寄せれば、金木犀の香りがふわりと広がる。
胸の奥にじわりと熱が満ち、体が逆らえない衝動で揺れる。
触れた瞬間に訪れる甘く痛い感覚――その熱に、自分が壊れそうだと悟る。
露葉を守りたい、でも近づくほどに自分が壊れる。
体を離し、短く「帰るね」と告げて車に乗り込む。
離れても、心は燃えたまま。苦しい。熱い。息が詰まる。
夜、彼女から電話が鳴り響く。
「どうしたの? 龍賢?」
「ごめん。さっきは…今日はちょっと忙しくて。また連絡するから」
電話を切ると、胸の奥の渦は収まらず、熱が身体中を這う。
触れれば近づけるのに、
近づくほど不安になる。
その距離の揺らぎが、ふたりの影をすこしだけ長くした――
そんな一章でした。




