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第297話『情熱②愛が確かなものになるまで…』

冬の空気は、心の奥の揺れをそのまま映すように澄んでいる。

静けさの中で、龍賢の胸に芽生えた感情は、もう隠せないほど鮮やかだった。

この物語は、その熱が形をとり始める瞬間の記録。



---

美術館へ続く並木道。

冬枯れの木々が影を落とし、二人の足音だけが小さく響いていた。


「――あれ?龍賢くん!」

不意に声がして、二人は振り返った。

駆けてきたのは龍賢の従兄弟だった。


「お参りの帰りか?」

「うん、そう。めっちゃ疲れたよ。……てか龍賢くん、彼女?」


からかうような言葉に、露葉は頬を染め、微笑みながら一歩前へ出る。

「はじめまして。小園露葉です」

小さな声とともに、視線は地面へと落ちた。


「うわ……綺麗な人。女っ気ない龍賢くんに、彼女が出来たって驚いてたのに。まさかこんな綺麗な人とは…聞いてはいたけど、びっくりした」

従兄弟は目を丸くして、ふと息を呑む。

「え……と、ありがとうございます」

露葉が恥ずかしそうに微笑み返すと、冬の光が頬に柔らかく反射した。


「あのね、露葉さんうちも寺なんだ。よかったら遊びに来てよ」

「はい」

露葉がかすかに頷いた瞬間、従兄弟の顔がぱっと明るくなる。


そのとき、龍賢がすっと露葉を自分の背に隠すように立ち、低い声で遮った。

「相変わらずうるさいな。誘うな。寄るな。……ジロジロ見るな。遊びに行かない。彼女が怖がるだろ。さっさと行け」


従兄弟はしばらく龍賢を眺め、ふっと笑った。

「へえ……面白い。初めて見た。龍賢くんが嫉妬してる。……人間だったんだね。へ〜普通に見える。」

興味深そうに呟き、最後に露葉へ軽く会釈し、ひらひらと手を振って去っていった。


その背中を、露葉は小さく息をつきながら見つめていた。

「人間だった…か。…従兄弟さんも、お坊さんなの?」

「ん。そう。……でも血は繋がってない。複雑な感じ…父さんの方の親戚。じいちゃんが最初に結婚した相手の連れ子の息子の子」

「……本当、複雑」

露葉は呟き、その複雑な血筋をなぞるように遠ざかる背中を見つめた。


龍賢はその横顔に小さな棘を覚え、思わず吐き出す。

「別に仲良くしなくていいだろ」

そう言って、彼女の手をぐっと引いた。

露葉は目を伏せ、それでも柔らかに笑みを浮かべてついていった。


──夜。

寺はひとけを失い、静寂だけが降りていた。

龍賢は本堂に入り、蝋燭に火を点す。

一瞬の火花ののち、小さな炎が立ち、障子に揺れる影を映した。


窓を開けると、冬の冷気が一気に流れ込み、炎は細く震えた。

その儚い光を見つめながら、龍賢は胸に募る熱をどうすることもできなかった。


露葉のことが頭から離れない。

いつから…?クリスマスからか…。

そばにいるのに、さらに欲してしまう。

嫉妬も独占も欲望も、形を変えては体を支配し、心を締めつける。


逃げ出したい――そう思うほどに苦しい。

でも離れている今のほうが、もっと苦しい。

彼女はいま、何をしている。

誰と、どこにいて、どんな顔をしているのだろう。


会いたい。

いますぐに。



---



気づかないふりをしていた思いは、寒さの中でより輪郭を持つ。

欲することも、苦しむことも、誰かを深く見つめてしまった証。

まだ言葉にならない熱が、次の夜を呼んでいる。



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