第44話「かみさまは、サイコロをふる?」
サイコロをふると、なにが出るかわからない。
でも、ふる“前”には、どの目もまだ生きてる。
出た目がすべて? それとも、出なかった未来も、どこかにある?
「神はサイコロを振らない」って言った人がいるけれど――
ほんとうに、神さまはサイコロをふらないのかな?
ちゃぶ台の上に、ちいさな白いサイコロがコロコロと転がった。
「……4」
「うん、ふつうに4が出たね」
タケルが言った。
アスはじっとサイコロを見つめてから、言った。
「でもさ、4が出たってことは、1も2も3も……“出なかった”ってことでしょ」
「そりゃそうだけど」
「その“出なかった目”って、ほんとに消えたのかな?
もしかしたら、“1が出た世界”とか、“6が出た世界”も、どこかにあるかもしれない」
「……え? なんか、こわくない?」
アスはちょっと笑った。
「アインシュタインが言ってた。神はサイコロを振らないって」
「……あ〜! 舌出してる頭いい人でしょ? へ〜カッコいい。
でも……どういう意味?」
「つまりね、“運”とか“偶然”とか、そんなものはないってこと。
本当の世界は、全部きまってる。サイコロの目も、ふる前からもう決まってるって」
「……それってさ、なんか、イヤかも」
「うん、ぼくもそう思う」
アスは言った。
「でも、ぼくはちがう考えがある。
――神さまは、サイコロをふる。だけど、ぼくらが“見た目”だけが、世界になる」
「見た目?」
「うん。ほんとは、全部の目が同時にふられてる。
でも、ぼくらが“見た”目だけが“ほんとう”になる。
出なかった目は、なかったことになる」
タケルは、ちゃぶ台の上のサイコロをじっと見つめた。
「……弟がさ、サイコロをさわってたとき、思ったんだ」
「うん?」
「弟はね、サイコロふらない。
目をひとつずつ、じっと指でさわって、数をかぞえるんだ。
ふしぎだけど、もしかしたらそれも、べつの見かたの宇宙なんじゃないかって」
アスは、ちょっと笑った。
「きっと、それは、すごく静かな宇宙だよね。
全部の目を、ゆっくり、ひとつずつ見ていく宇宙」
サイコロの“出た目”だけが、世界になる。
でも、ふる前には、すべての目が生きている。
出なかった未来は、本当に“なかった”のか?
それとも、ぼくらが“見なかった”だけで――
神さまは、静かにサイコロを振っていたのかもしれない。




