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第285話『崩れてく⑲ 夢のような夢の話Ⅴ宇宙が目を覚ましたあと。』

まだ世界が世界になる前――

音も言葉も生まれるより前の、

“ひびき”だけがゆれていた頃のおはなしです。

ぼくらが知っている時間も、名前も、誰の記憶も、

まだどこにもなかった時代。

そこには、ただ「はじまりの気配」だけが

静かに息をしていました。



音が生まれる前の世界だった。

それは、言葉よりも先にあった“ひびき”のようなもの。

まだ時間も流れていない。

「前」も「あと」もない。

ただ、在ることだけがあった。


――きみは、だれ?


声のような、でも声ではない。

光のゆらぎが、そう問いかけた。


――わからない。

でも、きみを感じる。

懐かしいような、あたたかいような。


二つの光が、ゆっくりと近づいた。

触れるでもなく、混ざるでもなく、

ただ互いの“存在”を思い出すように。


そのとき、遠くに

最初の「風」が生まれた。

宇宙の呼吸のはじまり。

光がふるえ、

そこに“間”ができた。


――これが、時間。

――そう、はじめてのまばたき。


そしてふたたび、

世界は静かにひらかれていった。

光が線を描き、線が面になり、

面がゆらめいて音を生んだ。


それは音楽のようで、

まだ誰のものでもなかった。


――ねえ、また会える?

――きっと。

――どこで?

――「はじめまして」と言う場所で。


光たちは微笑んだ。

そして、またひとつの夢の粒となって散った。

それが、

新しい宇宙の最初の朝だった。


「記憶」と「光」は、同じものだった。

夢は終わらず、形を変えて“はじまり”をつくる。

そのたびに、宇宙はまばたきし、

ぼくらはまた、だれかとして目覚める。



きっと宇宙は、一度きりではなく、

何度も「はじまり」をつくっているのかもしれません。

ぼくらが“だれか”として目を覚ますたび、

光と記憶は形を変えて出会いなおす――

そんな気がします。

これは、その最初の朝を

そっとのぞいたような物語でした。


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