第41話「しずかなモール」
ぼくたちは、毎日いろんな人とすれちがって生きている。
でも、「この人と一緒にいると、なにか大切なことに気づける」って思える人は、そう多くない。
今回、アスがいない時間を通して、タケルがあらためて気づいたのは——
当たり前だと思っていた“誰かの不在”が、実はとても大きなことだった、ということでした。
アスがいない土曜日。地元に帰ってるらしい。
「たまには、ぼくも一人で歩いてみようかな」
ふと思い立って、うちゅうかんさつノートをランドセルの中から取り出す。
ページをめくると、前にアスと書いた“夢の中の時間”の文字が目に入った。
今日は、書くより、見る日にしよう。
「お母さん、ちょっとモール行ってくるね」
「気をつけてね。スマホ、持った?」
「うん、あるよ」
ポケットを叩いて見せると、お母さんは安心したように笑った。
「なにかあったらすぐ電話してね」
玄関の扉を開けると、風がすこし冷たかった。
外はまぶしくて、空の青がひかっていた。
商店街を抜けて、バスに乗って、駅前のショッピングモールへ向かう。
人は多いけれど、アスと一緒じゃないせいか、どこか静かに感じる。
そんなとき、エスカレーターの下で懐かしい顔を見つけた。
「……あれ?」
去年同じクラスだった子たち。三人組。
名前はもうおぼえていない。でも、たしかに一緒に給食を食べたり、帰り道で話したりした。
「おー、タケルじゃん! なにしてんの?」
「ひとり?」
「ヒマしてんなら一緒にまわろうぜ」
声をかけられて、断る理由もない。
ぼくは、うなずいて彼らのあとについて歩きだした。
一人はずっとスマホでゲームをしている。
もう二人は、さっきからずっとおしゃべり。
くだらない話、くだらない言い合い。でも、楽しそう。
ぼくは何度か笑ったけど、なんとなく気づいてしまう。
「なんでだろう、ちょっと退屈だ」って。
でも、すぐ思った。
——それって、ぼくが彼らを下に見ているってことなんじゃないか?
——アスといると、いろんな話ができて、宇宙や時間のことまで考えるけど。
それって、ぼくが特別になったってことじゃない。
たまたまアスという、ふしぎな友達がそばにいるだけなんだ。
ぼくは、ノートをひらいて、静かに書いた。
「どんな場所にも、どんな人にも、きっと気づきがある。
それに気づけるかどうかが、ほんとうのちがいなんだと思う。」
そのとき、ちいさな自分のプライドが、すこしだけほどけた気がした。
ときどき、自分が“成長した”と思う瞬間がある。
でもそれは、「他の人より上になった」ということではなくて、
「今まで気づけなかったものに、気づけるようになった」ということかもしれない。
この回は、アスがいないからこそ見えるタケルの“今”を描きました。
そして、だれかと比べずに、ただ目の前にある時間を大切にすること——
それもまた、うちゅうかんさつの一つかもしれません。




