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第248話『誰かを祝う日①』

雪が降る夜は、時間の輪郭がやわらかくなる。

音が消え、呼吸と心臓の鼓動だけが世界を形づくる。


『誰かを祝う日①』は、そんな静寂の中でふたたび出会う龍賢と露葉の物語。

宗教も習慣も越えた「祝う」という行為の奥に、

“誰かを想う”という小さな祈りのような気持ちを描いている。


雪の夜に交わされた言葉は、

きっとどんな鐘の音よりも、静かに深く響いていた。



---


静かに雪が降り注ぐ夜。

月参りを終えた龍賢が自宅へ戻るころには、あたりは深い闇に沈み、境内の石畳には街灯の淡い光が反射していた。雪は音を吸い込むように静かで、龍賢の足音だけが小さく響く。


法衣の袖に収めていた数珠を取り出しながら門をくぐると、玄関先に人影があることに気付く。

そこに露葉が屈んでいた。雪を掌に受けるように目を閉じていて、龍賢の気配を察するとゆっくりと立ち上がる。


白いロングコートは雪景色に溶け込み、耳元から覗く大ぶりの耳飾りが街灯の光を拾い、かすかに揺れる。

ボブより短く、ショートより少し長い絶妙な髪型。前よりも少し切ったのだろうか、長い首筋がよく見え、雪の冷たさとともに妙に鮮やかに目に映る。

遠い瞳で龍賢を見つめ、小さく微笑んだ後、恥ずかしげに視線を伏せた。


「露葉、外にいつからいたの?」

龍賢は歩み寄りながら声をかける。

「さっき…」


露葉は小さな白い紙箱を差し出した。

「何?」龍賢は首を傾げ、箱を見つめる。

「龍賢は今日がなんの日か関係ないと思うけど、クリスマスだから…ケーキを持ってきたの。」


龍賢は一瞬考え込み、箱を受け取りながら目を細める。

「あぁ…今日、クリスマスイブか。ごめん、全然気づかなかった。今まで祝ったことがなかったから、意識してなかったんだ。」


露葉はかぶりを振り、小さく笑った。

「お坊さんにクリスマスを言うほうがおかしいでしょ。」


龍賢はその横顔を見つめ、優しく微笑んだ。

「祝うのに宗教は関係ないって、俺は思うよ。ありがとう。」


雪の音のない夜に、その言葉だけが澄んで響く。

露葉は安堵したように少し微笑み、俯いた。

「よかった。ケーキ渡しに来ただけだから。」


荷物を手にして踵を返そうとした瞬間、龍賢はその手をそっと握りとめた。

「露葉、手が冷たい。ずっと外にいたんだね…ごめん。」

「勝手に待ってただけだから…」露葉はうつむき、小さく呟く。

「もう帰るね…」


雪の結晶が二人の髪や肩に降り積もり、白い吐息が重なる。

龍賢は手を強く握り直し、真っ直ぐな眼差しを向ける。

「帰らないでほしい。どうでもいいことでも、なんでもいいから、露葉の話が聞きたい。この前は、ごめん露葉。」


露葉は一度だけ龍賢の瞳を見返し、すぐに視線を逸らした。それでも小さく頷く。

「悪いのは私…ごめんなさい。イライラしてて、ただの八つ当たりだった。私が悪いの。」


龍賢は悲しげに目を伏せ、しかししっかりと露葉の手を握り続けた。

「いや、俺が何もわかってなくて…本当にごめん。」


雪は静かに降り続け、街灯の下で無数の粒が舞い降りる。

足元には二人の影が寄り添い合い、白い世界に溶け込んでいく。

息遣いと鼓動の音さえ聞こえるほどの静けさの中、二人の時間だけが確かに流れていた。



---


祝うということは、

「いま、この瞬間を共に生きている」という証なのかもしれない。


誰かのために立ち止まり、

その人の手の冷たさに気づき、

ただ“いてほしい”と思う――

それだけで世界は少し温かくなる。


雪がすべての音を包み込む夜、

龍賢と露葉の間に流れたのは、

言葉にならない“許し”と“再生”の光。


この夜が、ふたりにとって

ほんとうの「誰かを祝う日」になっていく。

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