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第247話『クリスマスの話』

冬の町が光に包まれるころ、タケルの心にも小さな憧れが灯る。

けれど、お寺の家にはクリスマスの光は似合わない――そう言われるたびに、

タケルは「いけないこと」に心を寄せてしまう。

光と信仰、祈りと願い。

この季節にだけ訪れる、子どもたちのまなざしの物語。



---


タケルは庭の紅葉の枝に、こっそり銀色のモールを巻きつけていた。

そのとき背後から声が飛んだ。


「タケル、花まつりはまだ先だぞ。なにしてんの?……まさかクリスマスの飾りじゃないよな?寺の息子がクリスマスなんぞ祝わないよな?……まさかな。宗派違うからな。まさかな……違うよな。日本人がそもそもクリスマスってありえんよな……まさかな……」


お父さんは眉をひそめ、繰り返し「まさかな」と念を押す。

タケルは手に持ったモールをそっと隠し、曖昧に笑った。

街の光はあんなにきれいなのに――胸の奥ではまだ、憧れが消えていなかった。



---


冬休みの夕方。冷たい風が頬をなでる道を歩きながら、タケルはアスにそのときのことを話した。

「……だから、クリスマスの飾りは怒られちゃったんだ」


アスは肩をすくめて笑った。

「キミのお父さん面白いね。うちでは普通に飾るよ。ツリーもあるし、弟も楽しみにしてる」


「面白くないよ!いいなあ」

タケルはため息をつく。町中が光に包まれているのを見ていると、どうしても心がひっぱられる。

「なんか、ああいうの、憧れるんだ」


アスはしばらく黙って、街の灯りを遠くに眺めた。

「憧れるのは自然なことだよ。でも、光そのものに意味はないんだと思う。大事なのは、どんな気持ちで光を見てるか、じゃない?」


タケルは黙ってうなずいた。

思い出すのは、庭の紅葉にかけた銀色のモール。怒られたはずなのに、不思議ときらめきの記憶だけが心に残っている。


夜空にはまだ小さな星が瞬いていた。

タケルの憧れは、街の飾りではなく、心の奥で静かに光っていた。



光は宗教を越えて、誰かの心を照らすためにある。

けれど、祈りの形が違えば、そこに迷いも生まれる。

タケルの見た“クリスマスの光”は、単なる飾りではなく、

自分の中にある「憧れ」や「祈り」の形そのものだったのかもしれない。

――どんな信仰であれ、ほんとうの光は心の奥に灯るものなのだ。



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