第40話「ほんとうのあいって?」
「あいしてる」って、どういうこと?
それは、手をにぎること? キスすること?
それとも……手をひらくこと?
夜。
タケルの家にアスが泊まりに来ていた。
二人は並んで布団に入っていたけど、なかなか寝つけず、
テレビをつけたら、ちょうど恋愛ドラマがはじまっていた。
うつぶせになって、頬杖をついて見る。
画面の中では、大人の男の人と女の人が、にらんだり、泣いたり、キスしたりしていた。
「なんかさー……キスとかするのが“あい”なのかな」
と、タケルが言った。
「うーん。たぶん“おきまり”だよ、それ」
アスがぼそっと答える。
「“あいしてる”って、何?」
「なんだろうね。でもさ――」
アスは少しだけ体を横に向けた。
「エーリヒ・フロムって人がいてね」
「またそれ」
タケルは笑いながら天井を見た。
「その人が言ってた。“ほんとうのあい”は、相手を“自由にさせること”だって」
「え? 愛してたら、いっしょにいたくない?」
「いっしょにいたい。でも、それをつよくにぎると、相手がにげるかもしれない」
「手をはなすのが、愛なの?」
「“手をひらく”のが、愛なんだと思う」
テレビの中で、女の人がさけんでいた。
「あなたがいなきゃダメなのよッ!」
そのとき――
すーっと襖があいて、兄ちゃんがのぞきこんだ。
「……小学生が観るドラマじゃないし」
にやにやしながら言う。
「それに、エーリヒ・フロム語る小学生も聞いたことないなあ」
パチッ、とテレビを消される。
「早く寝なさい」
「えー」
「今いいとこだったのに」
と、二人で文句を言いながら、ふとんをかぶった。
部屋が暗くなり、しんとする。
しばらくして、アスが小さな声でつぶやいた。
「でもさ……“あい”って、宇宙にもあると思うんだ」
「うん」
タケルもそっと答えた。
「きっとある」
カーテンが風でふわっと揺れて、月の光が差しこんだ。
にぎりしめた手を、ひらいてみる。
そこに残るものが、ほんとうの“あい”かもしれません。




