表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
371/449

第237話『川と海の交わる場所②』

川と海が出会う場所には、

「流れ」と「止まり」のあいだがある。

そこでは、すべてが混ざり合いながらも、

まだ完全には溶けきらない。

アスと露葉が再び立つのは、そんな“境界”のような時間。

言葉よりも、風や光や沈黙が、互いの心を静かに映し出していく。

---

アスが少し足を速めて近づくと、露葉は待っていたかのようにゆっくりと振り返った。

漆黒の髪が夕陽にほんのりと光を帯び、耳元の黒い石の耳飾りが小さく揺れてきらりと光った。遠くからでも、その存在感が際立つ。


さっきまでの会話の余韻を残すように、彼女は柔らかく呟く。

「昔、川と海が交わる場所が好きでよく見に行ってたの。」


アスは少し首をかしげ、目を細める。

「ひとりで?」


「うん。子供の頃。」

遠くを見つめる瞳は、冬の空の灰色と混ざり合うように静かだった。


アスは間を置き、軽く問いかける。

「間に何があったの?」


露葉は一瞬アスを見つめ、微かに微笑む。

「何もなかった。それが気付くって事なんだなって気付いた」


冬の風が頬を撫で、髪の毛やストールをそっと揺らす。

アスは小さくクスリと笑った。

「気付いた事に意味があったかも」


「うん。」

言葉は少なくても、二人の間には沈黙の温度が流れ、遠くの川面や揺れる街路樹の枝がその時間を柔らかく包み込む。


しばらく、風と波のリズムだけが聞こえる中、露葉が小さく問いかける。

「アスくん、何してたの?」


アスは少し肩をすくめ、足元の落ち葉を踏む音に耳を傾けながら答える。

「散歩。お姉さんは?」


「私も散歩」

彼女の声は穏やかで、冬の夕暮れに溶けるように柔らかく響いた。



---


言葉が少ないほど、人は「何もなかった」中に何かを感じ取る。


川と海が出会っても、境界は一瞬で消えない。

ただ、ゆっくりと混ざりながら、新しい流れが生まれていく。

アスと露葉の会話もまた、そのゆるやかな潮のように続いている。

“気付く”という静かな出来事を、冬の風がやさしく運んでいた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ