表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
370/452

第236話『川と海の交わる場所①』

冬の夕方には、時間がゆっくりと流れる。

街と川、光と風、そのあいだにある静けさが、

心の中の“境界”をそっと溶かしていく。


この物語は、アスがその境界に立ち、

「流れ」と「止まる」もののあいだを見つめるところから始まる。

川と海が交わるように――人と人の思いも、

どこかで静かに混ざり合っているのかもしれない。



冬の夕方、街はオレンジ色の光に包まれ、建物の影が長く伸びていた。

アスは肩まであるコートを羽織り、手をポケットに入れてゆっくり歩いている。

冷たい風が頬を撫で、吐く息が白く漂う。街の音は穏やかで、遠くの車の音や人々の足音が静かに混ざっている。


通りの街灯が少しずつ灯り始め、アスの影が伸びたり縮んだりする。

窓の灯りから漏れる暖かい光に、一瞬立ち止まって目を細める。


川沿いの道に出ると、水面が夕陽を映してゆらゆらと揺れていた。

アスは手すりに肘をかけ、じっと波紋を見つめる。光の揺らぎが心を静め、冷たい風と水の匂いが交じり合う。


橋の向こうでは遠くの工場の煙突から立ち上る白い煙が風に流れ、川面の波と光のリズムに自然と溶け込む。

アスは小さく息を吐き、冬の静かな夕方を体いっぱいに感じた。


少し歩くと、歩道に落ち葉が溜まり、足元でカサリと音を立てる。

アスはゆっくり歩みを進めながら、冬の街と川の景色に包まれ、静かに心を整えていった。


ふと、遠くの角の向こうに人影を見つけた。

漆黒の髪が肩につくかつかないかの長さで、夕陽にかすかに光を受けて揺れる。

耳元には、真っ黒の石が揺れる繊細な耳飾り。小さく揺れるたびに光を反射し、静かな存在感を放っていた。


露葉だ――アスはそっと確認し、歩く速度を落として近づく。

露葉は立ち止まり、川面の光を見つめている。その姿は冬の淡い夕陽に溶け込み、透明感のある佇まいだった。


---


冬の光は、ものの輪郭をやわらかくしていく。

街も川も、そして人の心も。


アスが見つめたのは、水面の揺らぎか、それとも自分の中の揺らぎか。

川と海が出会うように、

離れていたものたちが少しずつ近づき、

ひとつの流れをつくりはじめる。


それは、再会の予感か、あるいは別れの始まりか――

静かな冬の夕方は、そのどちらも包み込んでいた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ