表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
353/451

第219話『兄の部屋⑧〜深い眠り…壱。』

日が沈み、夜の帳が境内を包む頃、居間には柔らかい灯りが灯る。

湯気の立つ料理と、小さな器の音が空気に溶け込み、部屋は静かに満ちていく。

眠気まなこで食卓を眺めるタケル、落ち着いたアス、そして微笑みながら料理を運ぶ龍賢。

この何気ない時間の積み重ねの中に、家族や友とのつながり、日常の温かさが静かに息づいている。


---

日が沈み、気づけば夜の帳が境内をすっかり覆っていた。

灯りのついた居間に、湯気を立てながら料理が並んでいく。龍賢が一皿ずつ丁寧に置いていくたび、器が小さな音を立て、空気が満ちていく。


テーブルの向こうでそれを見ていたアスが、ぽつりと口を開いた。


「これ、誰が作ったの?」


龍賢は肩越しに振り返り、苦笑を浮かべる。

「俺だけど、なに?」


ソファに寝転んでいたタケルが、体を起こしながらくすっと笑った。

「ねぇ、兄ちゃんの料理はね、見た目は最悪だけど、味は見た目よりはマシだよ」


「マシって……手料理食べられるだけ感謝しろよ」

龍賢はわざとらしくため息をつく。


アスは顎に手を当て、料理を品定めするようにじっと見つめる。

「へ〜、何に感謝すればいい?」


「お前、本当失礼なやつだな」

呆れ声とともに、白いご飯をよそう音が響く。


タケルはアスの肩に寄りかかりながら声を立てて笑った。龍賢は箸を手に取り味噌汁をすすり、その隣の小さな動きを目で追う。

タケルは眠気に負けて頭をこくりと下げ、ジャガイモを掴もうとしてはぽとりと落とし、また掴もうとしている。


「タケル、大丈夫か?」

「ん……」と、夢の底にいるような声が返ってきた。


龍賢は小皿におかずを取り分け、タケルの前にそっと置く。

タケルは微笑み、「ありがとう」と言って口に運ぶが、噛む間もまたアスの肩へ重みを預ける。


アスは気にする様子もなく箸を進めるが、龍賢の視線がタケルに注がれているのに気づき、ちらりと顔を上げた。


「眠い……」

タケルは箸を置き、ソファにもたれ大きなあくびをもらした。


「寝たら?」アスは本をめくるような声色で言う。


「昨日も寝ちゃったから、今日はゲームしたいし」

言葉とは裏腹に体はずるりとずり落ち、びくりと目を覚ましてはまた閉じる。


龍賢は食事を終え、タケルの隣に腰を下ろす。

「タケル。眠いなら寝た方がいい。俺、隣にいるから」


タケルは目をこすりながら、アスを見て、それから龍賢に目を移す。

少し恥ずかしそうに笑って言った。

「隣?べつにぼく……そうだ!お風呂入ったら目が覚める」


ふらつく足取りで浴室へ向かうタケルを見送り、龍賢は苦笑しながら後を追った。




---


タケルが眠気に揺れ、アスや龍賢がそっと見守るその様子。

言葉にされなくても伝わる安心感や、互いに居るだけで落ち着ける居場所の存在。

夜の光と湯気、そして小さな笑い声が、読者に静かで温かい余韻を残す。

体の疲れや眠気を忘れさせるわけではないけれど、心の奥にぽっと灯る、やさしい日常の光景がそこにはある。


---


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ