第216話『兄の部屋⑤魂』
朝の光が窓から差し込み、カーテンがそっと揺れる。
部屋には二人の呼吸だけ。
言葉にならない空気の中で、魂と体のことが自然に頭をよぎる。
今、この静けさのなかでしか、触れられない感覚がある。
アスは窓の外を見ながら、静かに口を開いた。
「魂って、あると思う?」
「魂?あるでしょ」タケルは迷わず答える。
アスはふっと微笑む。
「珍しいね、意見が合うなんて。嬉しいよ」
「普通、あるって思うよ」タケルが肩をすくめる。
「普通?どうして?」アスは首をかしげ、柔らかく聞く。
「だって、魂があるから生きてるんだ。体があるから魂も存在する」
アスは少し目を閉じて考え込む。
「なるほど……魂も体も、尊いものってこと?」
「当たり前じゃん。だから生きてるんだよ。どちらも大事なものに決まってる」
アスはそっと視線を落とし、ぽつりとつぶやく。
「でも、体ってただの容れ物だと思わない? 死んだら、いらなくなる」
タケルは眉をひそめ、少し呆れたように言った。
「容れ物って……キミは、またそんな言い方……」
でもアスの顔を見ると、どこか触れてはいけないような、微妙に神聖な雰囲気が漂っている。
タケルはそこで黙り込み、ただアスの表情を静かに見つめた。
アスは続ける。
「魂は、体に宿るからこそ、ここにいるように感じられる。だから体があるから、僕たちは誰かの魂を感じることもできるんだよ」
タケルは少し考えてから頷く。
「そうか……だから、怖いときも、悲しいときも、生きてるんだね」
アスは微かに笑って、柔らかく言った。
「そう、魂も体も、僕たちが感じるもの全部、尊いんだよ……だから、意識することで見えることもある」
窓の外の風がカーテンを揺らす。部屋の中には静かな呼吸と、魂と体の存在を思う二人だけの時間が流れていた。
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魂も体も、目に見えなくても尊い。
怖さも悲しみも、生きている証として胸に響く。
意識することで、存在は確かに感じられる。
窓の外の風も、カーテンの揺れも、二人だけの時間の一部として静かに刻まれていく。
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