表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
334/468

第200話『友達の誕生日⑤あたたかい光』

誕生日の祝いは、贈り物や料理だけでなく、

その人を大切に想う心が集まって生まれるもの。

タケルとアス、そして露葉は、若林さんの家族に迎え入れられ、

ひとときの温もりの中で過ごします。

けれど、光の背後には、誰にも見えない影もまた静かに寄り添っていました。


---

食後のテーブルに、白い皿が静かに運ばれてきた。

そこには色とりどりのショートケーキが並んでいる。赤い苺はルビーのように艶やかで、キウイやオレンジは翡翠や琥珀の光を帯びていた。小さな砂糖の結晶がきらりと光り、まるで宝石箱を開けたようだった。


「わぁ、綺麗〜食べるのがもったいない…」

露葉が小さく吐息をもらすように微笑む。

タケルとアスは目を輝かせ、どのケーキを手に取ろうか迷っている。


ふと、部屋の隅から柔らかな音が広がった。

若林さんのおじいさんが、角に置かれた黒いピアノに腰を下ろし、指を鍵盤に滑らせていた。

窓辺の雪明かりと混じり合い、旋律は静かに部屋を満たしてゆく。


「この曲、聞いたことある!」

タケルがケーキを片手に顔を上げる。


「うん。ジュ・トゥ・ヴー…」

露葉が目を細めて、音に耳を澄ませる。

「素敵なお祖父さま…かっこいい」


アスはくすっと笑いながら、カップを揺らして言った。

「エリック・サティの曲を弾き出すおじいさんなんて、かっこいいよね」

そう呟くと、視線を窓の外へ向けた。ガラス越しに白い雪が舞い降りている。


タケルはケーキを頬張りながらも、思い出したようにアスの耳に何かを囁いた。

アスがこくりと頷き、二人は若林さんに向き直る。


「おめでとう、若林さん」

二人の声が重なり、そっと袋を差し出した。


「ぼくたちからのプレゼント」

タケルがにこにこと笑う。


若林さんはアーモンド形の瞳を大きく見開いた。

「わたしに?…」

驚きと戸惑いが入り混じった声。

「開けていい?」


箱を開けると、螺鈿の光を宿した櫛が静かに姿を現した。

「わぁ…綺麗」

若林さんは息をのむように呟き、両手で大切に櫛を持ち上げる。

そして少し涙ぐみながら、「ありがとう」と小さな声をこぼし、ふわりと笑った。


「はい。これは私から…」

露葉が紙袋を差し出した。


「えっ、露葉さんも…私に?」

若林さんが頬を染める。


露葉はにこりと笑い、コクリと頷いた。

「開けてもいい?」

若林さんが上目遣いで問うと、露葉はもう一度、小さく頷いた。


アスとタケルも、気になって身を乗り出す。

箱を開けると、櫛と同じ螺鈿柄のかんざしと手鏡が、淡い光を返しながら収められていた。


「わぁ〜!」

三人の声が重なった瞬間、若林さんはうつむき、小さな声で「ありがとう」とつぶやいた。

その肩が震え、次の瞬間、涙が頬をつたった。


父親もその姿を見て目を潤ませ、母親がそっと背を撫でる。

家族の温もりが一つの輪になり、部屋いっぱいに広がった。


***


帰りの車。

街灯の光がフロントガラスに淡く映り、雪が静かに降りしきる。


「若林さんの家族…素敵な家族だった」

露葉がハンドルを握りながら、少し夢見るように言った。

「タケルくん、アスくん…二人とも、今日は誘ってくれてありがとう…素敵な時間をありがとう」


アスはその横顔を見つめ、口元に小さな笑みを浮かべる。

そして隣に座るタケルをちらりと見た。

タケルは、露葉の喜ぶ姿を見て、心から幸せそうに微笑んでいた。


アスは視線を窓の外へ移す。

遠くの高台に、さっきまで過ごしていた大正風の建物が、雪に包まれて静かに佇んでいる。



出会った頃から、露葉はどこか孤独を身にまとっていた。

その悲しみは、降り積もる雪のように彼女の心に重なっていく。


――彼女は忘れてしまっている。

ぼくと君だけの秘密を。



--


涙をこぼすほど嬉しい「ありがとう」が響いた夜。

それは確かに幸せな時間でした。

けれど、人は誰しも、心の奥に言葉にできない秘密を抱えています。

露葉の微笑みの奥にもまた、雪のように降り積もる孤独が隠されていました。

温もりと影――そのどちらもが、人を人にしているのかもしれません。


---

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ