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第193話『蜘蛛⑥ 』

夜の雪の中で、ふと目に入る一本の蜘蛛の糸。

それは庭と空を結び、まるで宇宙の奥深くへ伸びていくようにも見えます。

小さな蜘蛛が編み出す糸には、目に見える以上の「つながり」や「秩序」が宿っているのかもしれません。

今回は、そんな蜘蛛の糸をめぐるふたりの対話です。

---


翌日、昼休み。


タケルは机の前で、昨日の夜のことを思い返していた。

あの雪の中で見た蜘蛛の糸――まるで宇宙の糸のように、光を反射して庭から空へ伸びていた感覚。

八本の足が描く微かなリズムと、糸の揺れが時間の流れと呼応していた気がする。


ふと、アスが横に座った。

「どうしたの、タケル。まだぼんやりしてる」

タケルは少し照れながら、でも真剣な顔で話し始めた。

「ねぇアス……昨日の夜、また急に庭にいて、夢か現実かわからない感じになって、そしたら、夢か現実かわからないけど、蜘蛛の糸が宙に光って、宇宙みたいだった…そんな光景を見たんだ」


アスは目を細めて、笑った。

「へぇ……キミ、最近面白い事続きだね。」


タケルは少し息を整えて続けた。

「先生が蜘蛛は逃がして、ハエは殺してた話昨日したでしょ。なんで蜘蛛だけ特別なのか、話た。夜もずっと考えてたんだ」


アスは指先で机を軽く叩きながら言う。

「うん。見た目のこともあるかもしれないし、生き残る力を感じるのかもしれない。でも、糸のことを考えるともっと面白い」


タケルは眉をひそめる。

「糸?」


アスは窓の外をちらりと見ながら、低く、でもゆっくりと話す。

「蜘蛛の糸って、ただの糸じゃない。八本の足で作られる線が、世界を繋ぐかのように見えるんだ。光を受けて揺れるたび、時間や空間が小さく、でも確かにつながってる気がする」


タケルは机の角に手を置き、息を呑む。

「……蜘蛛の足と糸で、宇宙みたいに感じるの?」


アスは小さくうなずく。

「そう。見える世界だけじゃなく、見えない秩序まで、蜘蛛の小さな体が教えてくれるんだ。命の特別さも、時間の流れも、全部、同じ糸の上で揺れている」


タケルは窓の外に目をやる。

冬の光の中、枝にわずかに残る雪が、蜘蛛の糸を思わせる。

「……なんか、昨日の夜、庭で見たものと同じだ」


アスは微笑み、目を細めたまま言った。

「そうだね。だから、キミが感じてる『蜘蛛が特別』っていうのも、きっと自然なことなんだよ」


タケルは小さく息を吐き、机の下で手をぎゅっと握った。

命も時間も、糸の上で揺れる――そのことを、昨日の夜、雪の庭で教わった気がした。



---

蜘蛛の糸は、とても細く、風が吹けばすぐに切れてしまうように思えます。

けれどその揺れの中に、時間や命の流れを感じ取ることができる――。

タケルが雪の庭で見た光景は、ただの「夢」でも「現実」でもなく、世界の奥に隠れた真実を映していたのかもしれません。

そしてその気づきを、アスと分かち合えたことで、蜘蛛の糸はより確かな「宇宙の糸」として結ばれていくのでしょう。



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