第191話『蜘蛛④ 蜘蛛と宇宙』
小さな蜘蛛の姿に、人はなぜ「特別さ」を感じるのだろう。
八本の足、繊細な巣のかたち。
ふとした問いかけから、タケルとアスは「命」と「宇宙の秩序」について語りはじめる――。
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タケルが視線を窓の外の白い枝先に戻すと、ふと声を漏らした。
「蜘蛛の足が八本なのも意味があるのかな?」
アスは目を輝かせ、ゆっくり頷いた。
「意味…そうかもね。八本。四対に分かれたその形、バランスが完璧だと思う」
タケルは蜘蛛を想像しながら答える。
「……確かに完璧かも…」
アスは窓の外の冬の空を見上げ、指で空気をなぞるように手を動かした。
「人間は、無意識に特別を感じるんだと思う。八という数字は宇宙でも、無限や永遠、始まりや繁栄を象徴することがある。蜘蛛の足も、知らず知らずそういう“特別”を僕らに見せてるのかもしれない」
タケルは目を丸くし、静かに息を吸った。
「足の数が……宇宙のことに繋がるの?」
アスは小さく笑う。
「うん。宇宙は、目に見えない規則で動いている。小さな蜘蛛の足も、その一部として、美しい秩序を形にしてるんだと思う」
タケルは窓越しに揺れる雪と蜘蛛の巣を見つめ、少しずつわかるような気がした。
「なるほど……蜘蛛が特別に見えるのは、見た目だけじゃなくて、宇宙のリズムを僕らに教えてくれてるからかも」
アスはにっこりと笑った。
「そう。だから、たとえ小さな命でも、触れた瞬間に世界が少しだけ変わる。特別だって、心で感じるんだよ」
タケルはうなずき、胸の奥に小さな温もりを感じた。
命の線引きは人が決めるけれど、命そのものの“特別さ”は、見逃せないものなのかもしれない――そう思った。
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命は人が勝手に線を引き、価値を分けてしまう。
けれど、その姿に秘められた秩序や調和は、人の心に確かに響く。
蜘蛛の八本の足に映る宇宙のリズムのように、特別さはいつも身近にひそんでいる。
それに気づいたとき、世界は静かに違った顔を見せはじめるのだろう。




