第187話『感じる事が答え』
時間とは、流れゆくものだと思っていた。
でもある夜、タケルは「時間」にふれるような、不思議な声を聞く。
円を描くように、終わりは始まりへとつながり、
ふとした瞬間にぼくらは「また会う」のかもしれない。
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昼休み。
窓際の席に光が落ち、アスは机に突っ伏してぼんやりと外を眺めていた。
今日は給食がなくお弁当の日。
タケルは弁当を食べ終えると、少し迷ってから声をかけた。
「昨日の夜……円が現れた」
アスの瞳がわずかに揺れ、こちらを向く。
「それで?」
「ぼくの質問には答えてくれなかった」
「キミの質問?」アスは首を傾ける。
「……どうして現れるのって」
「うん、そうだと思った」
アスは小さく笑って、タケルをまっすぐに見る。
その目はからかいではなく、何かを確かめるようにやわらかい。
「そしたらね、“えんそう”って話になって」
「円相?」
アスの声がほんの少し高くなる。
窓からの光を受けて、その瞳がふっと輝いた。
「へえ……面白いね。キミが寝ぼけてたわけじゃなさそうだ。
円相なんて、キミの口から出てくる言葉じゃない」
そう言って楽しそうに笑う。
「確かに……って、なんか失礼じゃない?」
「ふふ」
タケルはむっとしながらも、すぐに続きを口にする。
「円は、人によって見え方が違うって言ってた」
アスは箸を置き、窓の外に目をやる。
しばらく黙ってから、静かに言った。
「そうだね。見え方だけじゃなくて、人によって“意味”も変わる」
そして、またタケルに視線を戻す。
「タケルは、その円をどう見た?」
タケルは言葉を探すように、窓の外の空へ目をやる。
校庭に描かれた白線が、冬の光に照らされてぼんやり浮かびあがる。
円……。
胸の奥に、あの夜の声がふっと響いた気がした。
「ぼくは……」
言葉が途切れる。
アスはその沈黙を急かさず、ただ机に頬杖をついて待っていた。
やがて小さく笑みを浮かべる。
「それが答え」
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「時間」は時計の針ではなく、
出会いや記憶のなかに生まれ、円を描いていく。
タケルが見た円は、誰もが心の奥に秘めているもの。
ぼくらもまた、ふとした瞬間に、
その円のなかで大切なものに再び出会えるのかもしれない。
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