第184話『恋⑤ ふえきりゅうこう』
冬の光は冷たくても、心は柔らかく揺れる瞬間がある。
小さな手のぬくもりや、言葉にした想いの一瞬が、変わらないものと変わるものを静かに結びつける。
シンが露葉に抱きつき、嬉しそうに笑うのを見て、僕は肩の力が抜けた。冬の冷たい空気の中、ここだけ柔らかな光が満ちているみたいだった。
アスが静かに口を開く。
「不易流行って知ってる?」
僕は首をかしげて、思わず声を出す。
「ふえきりゅうこう? なにそれ?」
その声が本堂の静けさに少し響く。
クスっと笑う声がして横目で声の方を見ると兄が、軽く笑って
「またアスは、小学生が小学生らしくない言葉を使って……」と言う。
アスは石段に腰を下ろし、遠くを見つめたまま、柔らかく言う。
「変わらないものも、変わるものも、両方あるってこと。ずっと同じことも、少しずつ変わることも、どちらも大事なんだ」
僕はポケットに手を入れ、シンの小さな手の温もりを感じる。
冬の空気は冷たいけれど、この瞬間だけは心がぽかぽかしていた。
「たとえば、シンがつゆはって名前を呼んだこと」とアスは続ける。
「それは変わった瞬間でもあり、同時に変わらない確かなものでもある。言葉にしたけど、その意味はずっとそこにあった」
僕は息をつき、シンの小さな手をぎゅっと握る。未来がまだ霧の中でも、確かにここに光があることを感じた。
アスは空を見つめ、少し笑った。
「変わらないものも、変わるものも、全部、いまの光に包まれてる」
階段の向こうの空はオレンジ色から群青に変わり、冬の風が髪を揺らす。けれど僕たちの胸には、小さくても確かな温もりが残っていた。
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変わらないものも、変わるものも、すべては同じ光の中にある。
名前を呼ぶこと、手を握ること、心の中で思い描く温もり──その小さな行為が、未来の確かな灯りとなって、冬の空気にやわらかく溶けていく。




