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第162話〜社会科見学①『武家屋敷』

冬の空気がひんやりと頬を撫でる朝。

校庭の木々は静かに葉を落とし、日差しはまだ低く、細く差し込む。

今日、ぼくらは江戸時代の建物を見に行く。

残された屋敷に、昔の人の時間がそっと積もっていると、アスは言っていた。


---


冬の校庭を抜け、タケルとアスはバスを降り、武家屋敷の門をくぐった。

冷たい風が頬を撫で、吐く息が白く空に消える。

枯れた木々の向こうに瓦屋根が並び、障子の向こうの薄い光が冬の庭に柔らかく落ちていた。


先生が説明している。

「この建物は江戸時代のまま残っています。昔の武士たちの暮らしが、そのまま感じられるでしょう」


タケルは目を細め、屋敷の柱や土壁をじっと見る。手をかざして触りたいけど、まだ少し怖い。

アスは静かに畳の縁を指でなぞり、庭を見渡す。


タケル:「でも、手を加えて今も残ってるってことは、江戸時代の建物じゃないんじゃないの?」

タケル:「テセウスの船?だっけ、アスがよく言ってるやつ」


アスは肩をすくめ、少し微笑む。

アス:「へ〜、驚いたよ。キミの口からテセウスの船って言葉が出てきた上に疑問まで持ったなんて」

タケル:「そりゃアスが毎回変な思考実験の話してくるから、さすがにぼくでも覚えるよ」

アス:「嬉しいよ。きみ自体が、元のきみじゃなくなってることを」

タケル:「大袈裟だし、言い方こわいよ!」


縁側を進み、二人は室内へ足を踏み入れた。冷たい空気に比べ、畳や土壁は少しだけ暖かく、昔の人の息遣いが残っているようだった。


タケル:「うわ、床がギシギシいう」

アス:「昔の時間も覚えてるみたい」

タケル:「なんか、こわい…でも不思議」


奥の部屋に差し込む冬の光。アスは畳の縁を指でなぞり、静かに言った。


アス:「この畳も、昔の人が踏んだんだよ。手を加えられても、昔の時間の名残が少しだけ残ってる」

タケル:「へえ…踏んだ跡までわかるの?」

アス:「わからないけど、感じるんだ。時間って、そうやって今と少しずつつながってる」

タケル:「ふーん…なんだか不思議な気分だな」


二人は庭に面した窓のそばに立つ。冬枯れの木々の間に、細い日差しが揺れる。


タケル:「さみしい庭だね」

アス:「でも、葉っぱがなくても木はそこにいる。昔の人も、同じ風景を見てたかもしれない」

タケル:「そっか…なるほど」


タケルは柱に手を当て、冷たいけれど確かな感触を確かめる。

アスは隣で、目を閉じ、昔の人の息遣いをそっと感じていた。


---


縁側の柱に手を置き、冷たい感触を確かめる。

冬枯れの庭を見つめながら、タケルは思う。

昔も今も、ここには誰かの時間が息づいている。

触れられるもの、見えるもの、聞こえるもの、すべてが静かに昔の人とつながっているのだと。

そして僕たちは、その時間をほんの少しだけ覗かせてもらった。


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