第160話『暖かな場所』
前書き
冬の教室には、独特のあたたかさがあります。
外の冷たい空気や白い息とは反対に、日だまりのように柔らかな時間が流れる。
タケルの目には、その空間がどんなふうに映っているのでしょうか。
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教室の窓から差し込む冬の陽射しが、ぼくの手のひらをぽかぽかと温めていた。
外は冷たい風が木の葉を揺らしているのが見えるけど、教室の中はぽかぽかしていて、まるで小さな日だまりみたいだった。
前の席のコウダイがくすっと笑いながら振り返った。
「タケル、手のひらで遊んでるの?」
「うん。光が気持ちよくてさ」
「へんなの」
ぼくはにやっと笑って、もう一度手をかざす。
コウダイも真似して自分の手を光にかざした。
黒板の前で先生が次の授業の準備をしている。
チョークの粉がふわっと舞い上がり、ほのかな香りが鼻をくすぐる。
隣の席のミナミちゃんが鉛筆を転がしながら、楽しそうに話しかけてきた。
「ねえタケル、昼休み何して遊ぶ?」
「うーん、外は寒いけど、鬼ごっこする?」
「いいね!」
教室の壁に貼られたみんなの絵やカレンダーがゆらゆら揺れるのは、窓の外の風のせいだろうか。
廊下からは、時々他のクラスの楽しそうな声や足音が聞こえてくる。
ぼくはその音に安心しながら、窓の外のゆらゆら揺れる木々をじっと見つめた。
教室のあたたかい空気に混じって、風の音がまるで優しい歌みたいに聞こえる。
「チャイムだ!」ユウスケが声をあげる。
みんなが一斉に席に戻り、机の上に教科書やノートを広げる。
ぼくもゆっくりと席に戻り、鉛筆を手に取った。
でも、なんだか気持ちはゆっくりで、文字を書く手がふわりと止まる。
ぼくはふと思った。
この教室、この時間、このみんなの声や笑顔が、ぼくをあたたかく包んでくれているんだって。
寒い冬の外とは違って、ここには小さなぬくもりがたくさんある。
そして、そんな場所にいられることが、ぼくにはとても大切に思えた。
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後書き
一日の中で、特別な出来事がなくても心に残る瞬間があります。
それは、何かが起こったからではなく、ただ「そこにいた」という事実が大切だから。
タケルにとって、この冬の日の教室も、きっとそんな記憶のひとつになるのでしょう。
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