第159話〜龍賢の視点『悩⑦星の下で』
ぼくらが信じているものって、本当に「正しい」って言えるんだろうか。
星の数ほどある世界の中で、証明できないことだらけの毎日を、ぼくらはどう歩いていけばいいのか。
今回の話は、そんな「信じる」ということの、不思議でちょっと切ない一夜のことです。
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龍賢の家にタケルとアスが泊まりに来た日。
冬の澄んだ夜空の下、三人は静かに星を見つめていた。
アスが小さな声で言う。
「ぼくたちは星の材料でできているんだって」
タケルはきょとんとして、首をかしげる。
「なにそれ?」
龍賢は微笑みながら答えた。
「どこで覚えてきたのか…カール・セーガンの有名な言葉だね」
アスは空を見上げたまま、小さく頷く。
「じゃあ、宇宙は誰が作ったんだろうね?」
アスがぽつりと問いかける。
龍賢はしばらく星空を見つめ、ゆっくりと答える。
「それは…ぼくたちもまだ答えを知らない。科学も哲学も、まだその謎を追いかけているんだ」
アスがさらに声を潜めて言った。
「じゃあ、ぼくたちは何を信じればいいんだろうね?」
龍賢は夜空から二人に目を向け、穏やかに答えた。
「証明できないこともあるけど、感じることは信じていいんじゃないかって俺は思うよ。家族の温かさや友だちの優しさみたいな、目には見えないけど大切なものをね。」
アスは少し寂しそうに微笑んだ。
「じゃあ、この世界がもし錯覚だとしても…?」
龍賢はその言葉に一瞬、考え込んだ。
「たとえそうだとしても、錯覚の中で感じることは嘘じゃない。アス達が今ここで感じることが、アス達の真実なんだと思うよ。」
「真実…」
アスは静かにぽつりと言ったあと更に言葉を続けた。
「じゃあ、信じることが苦しみだとしても…?」
龍賢はアスの瞳をじっと見つめた。
その問いに言葉を探すが、うまく答えが出てこない。
――なぜ、まだ10歳の少年が、こんなにも深い問いを口にするのか。前から感じていた、年齢とのギャップ…。違和感。自分が10歳の頃はどうだったかなっと思い出せば思い出すほど胸の奥が締めつけられるようだった。
その空気を破ったのは、タケルの大さな声だった。
「苦しくないよ。ぼくを信じて。」
タケルの声の大きさに少しビクッとしながらアスはわずかに微笑みを返す。
その表情は、どこか儚く、でも確かなものを秘めていた。
龍賢は二人の姿を見つめながら、静かに気付いた。
――タケルが思っている以上に、アスの方がタケルを必要としている事に。
寂しげな瞳を伏せるアスの背中に、何か守りたいものを感じていた。
冷たい夜風が頬をなで、遠くで星が瞬いている。
三人の間には、言葉にはできないけれど、確かな強さが流れていた。
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信じることは、時々、重くて苦しい。
けれど、信じる相手の顔を思い浮かべると、その重さがふっと軽くなる瞬間があります。
タケルとアスにとって、それは互いの存在そのもの。
きっと、正解なんてなくても、二人は今日も同じ空を見上げているでしょう。
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