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第155話…龍賢の視点『悩③普通である事』

誰かの「普通」を見つめることは、時にとても難しくて、切ないことです。

変わらないものを羨みながら、自分の中の不確かな気持ちに戸惑う。

この物語は、そんなタケルの心の揺れを描きました。



---


月参りから帰ると、家の前にランドセルを背負ったタケルが立っていた。

冷たい風、空気が頬をかすめる。

母さんから「最近元気がないみたいだ」と聞いていたけれど、学校を抜けてまで来るとは思わなかった。

窓越しに見つけたその姿を見て、すぐにわかった。――話したくて来たんだな。


「タケル、寒いから中に入ろっか?」

声をかけると、タケルは小さくうなずきながら玄関の扉を押し開けた。


リビングに入ると、ランドセルをゆっくりと下ろし、タケルはソファに腰をおろした。

普段の元気な様子は影をひそめ、まるで風に揺れる薄い葉のように小さく震えている。


「学校は?」と尋ねると、タケルはしばらく黙ったまま俯く。


やがてぽつりと口を開いた。


「兄ちゃん、普通って何?」


龍賢はゆっくり息を吸い、タケルの目を見つめ返す。

「タケルは普通って何だと思う?」


タケルは少し顔を上げて、手をそっと膝の上で組んだ。

「ぼくみたいなひとの事。弟…シンはさ、この先もずっと変わらないんだなって思った。その姿が眩しくて。じゃあ、アスは?あ〜アスは特別な存在なんだなって。」


龍賢は少し目を細めて、やわらかく笑った。

「普通って、悪いこと?」


タケルはまた俯き、息を小さく吐いた。

「わからない。でも、ぼくだけは、シンが繰り返し聴いてるアニマ・クリスティも、あの日も、この瞬間もいつか消えて、別のぼくになる。アスのこともシンのことも忘れて、思い出すことさえなくなる。さびしいなって。」


その言葉に胸が締め付けられ、龍賢は深く息をついた。


「子どもの頃、俺も同じこと考えたよ」

そう言うと、タケルは顔を上げ、僕の目をじっと見つめた。


「兄ちゃんも?」


「うん。平凡な自分に気づいた時、苦しくなった。今が全て消えてしまう気がした。だけど、大人になるって意外と悪くないよ。覚えてたり、振り返ってあの頃の今に触れられたりする。」


タケルは少し戸惑った表情で、小さく息を吸った。

「でもぼく、怖い。変わるかもって。ぼくだけがアスたちの場所にいなくなる気がして…寂しい。」


龍賢は静かにタケルの肩に手を置き、柔らかく微笑んだ。

「ねぇタケル。怖いなら、タケルが忘れそうになったら、俺が教えてあげる。俺はずっとタケルの兄だから。」


その言葉に、タケルの目にゆっくりと光が戻り、龍賢をじっと見つめ返した。


数秒の静寂のあと、タケルはふと口を開いた。


「兄ちゃん…アスも兄なんだね。シンのお兄ちゃん。」


龍賢は目を細めて、そっと微笑んだ。



---


変わることを恐れる気持ちも、変わらないことの尊さも、どちらも本当のこと。

大切なのは、たとえ迷っても、誰かと一緒に歩いていけることかもしれません。

タケルと龍賢の静かなやりとりが、そんなことを伝えてくれたらうれしいです。



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