第147話②特別編〜龍賢の視点『罪は誰?』
人は時に、正解のない問いに向き合わなければならない。
10歳の少年アスが口にしたのは、「罪」というあまりに重い言葉だった。
その問いは、答えよりも、問いかけたその心の優しさにこそ意味があったのかもしれない。
その日、寺の縁側には秋の風が吹き抜けていた。
龍賢は、古くなった座布団を日干ししながら、廊下の先でこちらを見ているアスに気づいた。
「兄ちゃん…」
アスが縁側に座り込む。
少し間をおいてから、静かに口を開いた。
「安楽死って、罪?」
龍賢は座布団を置き、アスの顔を見た。
「…ずいぶん重い話をするな」
「うん。でも、ずっと気になってた」
アスは、どこか遠くを見つめるように続けた。
「もし本人が“もういい”って思ってて、家族も“もう楽にしてあげたい”って思ってて…でも、そのために手を貸す医者もいる。
…それって、罪は誰のもの?」
龍賢はしばらく黙った。秋の虫の声が、妙に大きく響く。
「…簡単には決められないな。正解なんて、たぶんない」
アスはうなずき、少しうつむいた。
「やっぱりそうなんだね」
龍賢はアスの横顔を見つめる。
10歳の子が“罪”について、こんなにも真剣に考えている。
その事実が、胸の奥をそっと締めつけた。
「…なら、大人になって、もしそんな場面になってしまった時、考えるよ」
アスはぽつりとつぶやく。
龍賢は小さく笑い、言った。
「その時は、俺も一緒に考えるよ」
アスは目を細め、微笑んだ。
何も言わず、ただその笑みだけを残した。
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人の心は、白か黒かだけでは語れない。
けれど、共に考えてくれる誰かがいるなら、その灰色も少しは温かく見える。
そんな温かさが少し切ないお話。




