特別編…彼女記録『カフェ①〜カフェの午後』
人と人は、言葉でつながっている。
でも、言葉をこえてつながることも、本当にあるのかもしれない。
それを教えてくれたのは、アスくんと、その弟だった。
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アスくんの弟、シンくん。
5歳で、自閉症スペクトラム障害だと聞いた。
私にとって、その世界はまったく知らない場所だった。
静かに閉ざされた小さな世界。
そこにいるのは、彼ひとりだけのはずなのに――
その世界は闇ではなく、なぜか光のようにやわらかく澄んでいた。
カフェの個室でお茶をしながら、私は2人を眺めていた。
シンくんはメニューをめくり、指先で「フレンチトースト」をトントン叩いて、
嬉しそうに「ケーキ」と呼んでいる。
私の画集を覗き込み、ページの色を小さな声でつぶやいていく。
その横でアスくんが、ふっと笑って言った。
「シンはね、ぼくのいちばん静かな友達なんだ」
「友達?」と私が聞き返すと、アスくんは少し考えてから、
「…うん。弟だけど、ぼくが話せないことも、ちゃんと聴いてくれる」
と、まっすぐな目で言った。
その横顔がとても綺麗で、胸の奥がじんわり温かくなった。
きっと、この2人は言葉より深くつながっている。
そんなことを、私ははじめて知った。
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沈黙の中にも、ちゃんと届いている気持ちがある。
シンくんの世界を覗いたとき、私は少しだけ、
「言葉の外にある光」を見たような気がした。
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