第141話『幽霊は死人だから』
秋の夕暮れは、なぜか少しさびしくて、ふしぎな気配がします。
タケルとアスは、「幽霊って、ほんとうにこわいの?」という話をします。
見えないものに、耳をすませてみたくなる秋のお話です。
お寺の縁側に、二人で座っていた。
午後の光が障子越しに差しこみ、
木の床にゆれる影をおとしていた。
「幽霊ってさ、ホントにいたらこわいよね」と、タケルがふいに言った。
アスは、隣で黙って夕空を見ていたが、ふと首をかしげた。
「なんでこわいの?」
「だって死人だから」
「うん。幽霊だからね」
「だからこわいよ」
「なんでこわいの?」
「だから死人だから!」
「うん。幽霊だからね」
「……もー。キミと話してると幽霊がこわくなくなってくる」
「うれしいよ。ボクは幽霊に会いたいから」
ふたりの笑い声がこぼれたとき――
障子がすうっと開いて、兄が笑いながら顔を出した。
「お前たちのやり取りホント面白いな」
タケルが笑いながら答える。
「兄ちゃんはさ、見たことあるの? 幽霊」
兄は、縁側の柱によりかかった。
「あるよ。タケルが生まれる前だけどな。……何度も」
「ほんと?」
「ほんとさ。お寺ってのは、いろんな“想い”が残ってる場所だから。
とくに秋になると、ふっと通りすぎていくんだよ、そういう気配が」
アスが、静かに聞いていたが、ぽつりと聞いた。
「幽霊って、さびしいの?」
兄はその問いに、しばらく考えてから言った。
「たぶんね。……でも、さびしいって気持ちも、こっちの世界から見たものかもな。
あっちの世界では、ただ“そこにいたい”ってだけなのかもしれないよ」
タケルが、ふと空を見上げた。
「あっちの世界って、どこにあるんだろう」
兄は縁側の板を軽く叩きながら言った。
「わからない。けど、秋の風がふくとき、ふっと“近くなる”気がするよ。
ほら、いまも」
風が、木々のあいだから庭を抜けていった。
一枚の葉が、音もなく落ちた。
アスはその音を見送るように言った。
「もし会えたら、ぼくは、こわがらないよ」
タケルも、少し考えてからうなずいた。
「……ぼくも、たぶん、こわくない。キミとなら」
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こわいって、なんだろう?
「わからないもの」だったはずが、
だんだん「たいせつな何か」に変わっていくかもしれません。
秋の風のなかに、そんな気配がまぎれている気がします。
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