第140話『ねてるぼくと、あるいてるぼく』
朝起きて、眠いまま学校に行って、帰って、また寝る。
そんな毎日だけど、ときどき「これって本当に今なのかな」と思う日がある。
もしかして、まだ夢の中?
じゃあ本当の“ぼく”は、どこにいるんだろう?
今回は、そんな不思議な感覚のお話です。
朝。
「タケル、起きなさい!」
母さんの声が遠くで聞こえて、ぼくはまぶたをゆっくり持ち上げた。
体が、すごくだるい。
重たい空気の中で、ご飯をもぐもぐ口に入れながら、ぼーっとテレビを見てたら──
「もうっ、いつまで食べてるの! 遅刻するわよ!」
母さんの声が、さっきより近くて鋭い。
ぼくは慌てて着替えて、口をふきながら家を飛び出した。
校門までの道の途中で、アスに会った。
「アス、おはよう」
「うん。おはよ」
「なんかさ、今日…ダルいんだよね」
アスはぼくをチラッと見て、言いかけてやめた。
「だってキミ…」
でも、それ以上は言わなかった。
1時間目、2時間目、昼休み、掃除の時間、5時間目……
気づけば、夕方。
教室に残ってるのは、ぼくだけだった。
誰もいない教室。
机に腕をのせて、オレンジ色の夕陽をただ見つめていた。
──カタン、と後ろのドアが開く音。
ふりかえると、アスが立っていた。
「気づいた?」
アスが言った。
「……何を?」
ぼくは自分の机の上に目を落とした。
「今日、一日、すごく長く感じた。それに、ずっと体がダルかったよ」
アスは、夕陽の方に歩いて行った。
差しこむ光に、手をかざす。
そして、指をすこし開いて、ユラユラと動かした。
ふと、その姿を見ていて、ぼくは気づいた。
アスに──影がない。
……そして、ぼくの足元にも。
「気づいた?」
アスがもう一度、静かに言った。
そのとき──目の前が真っ白になって。
ぼくは、ふとんの中で目をさました。
窓から、朝の光がさしこんでいた。
「……え?」
ぼくはパジャマを着たまま、布団の上にいた。
「えっ、あれ? ……夢だったの……?」
着替えて、学校に行く。
校門の前で、またアスに会った。
「アス……」
「おはよ」
アスはぼくの顔をじっと見て、ふっと目をそらした。
「最近ね、夢なのか現実なのかわからなくなる日があって……ぼく、ちょっとこわいんだ」
「それって、今日……?」
「うん」アスは言った。
「きみ、まだ寝てるよ」
──風がすうっと吹いて、アスの髪がゆれた。
ぼくは、まだ目をさましていないのかもしれない。
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目を開けていても、ちゃんと“起きてる”とは限らない。
寝ているようでも、どこかでは歩いている“ぼく”がいるかもしれない。
現実と夢の境目が曖昧になるとき、ぼくらはほんとうの「今」に、耳をすます。
きみは、いま──起きてる?




