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第27話 「うまれる前の、なにか」

「宇宙はなぜ生まれたのか?」

この問いには、科学も宗教も完全な答えを出していません。

でも私たちは、なぜか「何もなかったところから、何かが生まれた」と信じています。

その“なにもない”とは何か——その深い静けさに、耳をすませてみましょう。


きょうは、空がとても高く見えた。


秋の風がふいて、金木犀の香りがかすかにただよう。


タケルは縁側にすわって空を見上げていた。


そこへ、アスがやってきた。


「ねえタケル。宇宙って、どこから生まれたの?」


唐突だったけど、アスが来るとたいていそうだ。


「ビッグバンじゃないの?」


「でも、ビッグバンの“まえ”は?」


「……わかんない。なにもなかった、って聞いたけど」


アスは草の上に寝ころんで、空をながめる。


「なにもないって、どんな感じなんだろうね」


「うーん、真っ暗で、音もなくて、ぜんぶゼロ?」


アスは目をとじた。


「でもさ、ゼロって数じゃん? 数がある時点で、なにも“ない”わけじゃない」


「じゃあ、ほんとの“なにもない”って?」


「……言葉にもできない。考えることすらできない。

つまり、“考えようとした時点”で、もう“なにか”なんだよ」


タケルは、兄と話したある日のことを思い出した。


兄は言っていた。


「“無”というのは、“可能性そのもの”かもしれない。

まだ何にもなっていない、でも“なにかになれる”状態」


アスが目をひらいた。


「それって、“なんでもある”よりすごくない?」


「うん……でも、じゃあその“無”は、なんで“宇宙”を生んだのかな」


アスはすこし考えてから言った。


「たとえばね、だれかが“思い出そうとした”からじゃないかな」


「思い出す?」


「うん。思い出そうとして、宇宙がひらいた。

忘れられた“なにか”が、自分を思い出すために“ぼくら”を生んだんだ」


タケルはそれを聞いて、少し背すじがぞくっとした。


夕日が、静かに沈んでいく。


アスがぽつりと言った。


「もしかして、ぜんぶ思い出したとき、宇宙はおわるのかもね」

仏教では「くう」、科学では「真空」、哲学では「無」や「存在以前の状態」。

どれも「言葉にできない根源」を語ろうとした試みです。

けれど、言葉にした瞬間、それはもう“何か”になってしまう。

だからこそ、私たちは考え続けるのかもしれません。

自分たちの“はじまり”と、“終わり”を。


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