番外編〜アスの心『まわるきみのそば』
呼ばなくても、ふと出会ってしまう人がいる。
それは、理由もなく、でもどこか自然に。
アスと彼女のあいだにあるのは、そんな静かな共鳴です。
秋の午後。
アスはお使いの帰り道、少しだけ遠回りして、公園に立ち寄った。
風が吹くたび、木の枝が揺れ、色づいた葉がひらりと落ちていく。
小さな音が足もとでさざめくように響き、アスは黙ったまま歩き続けた。
ふと、前方から人の気配を感じる。
光を背にしたその人は、静かに歩いてくる。
ショートボブの髪が風に揺れ、耳元にかすかに銀の耳飾りがのぞいた。
近づいてくるにつれて、どこか懐かしい、やわらかな香りがアスを包む。
「……お姉さん」
そう言うと、彼女は足を止めて、小さく頷いた。
「アスくん……今日、タケルくんは?」
「ううん。一人」
彼女はそれ以上何も聞かなかった。
「わたしもなの……なんとなく」
そのまま、ふたりは並んで歩き出す。
何かを約束したわけでもないのに、道の端から端まで、ぴたりと合う足音。
紅葉がまた一枚、アスの肩に落ちた。
ベンチの前で、ふたりは自然と立ち止まる。
彼女がそっと腰を下ろし、アスも隣に座った。
空は高く澄んでいて、陽ざしはやわらかく、
まるで世界全体が一瞬だけ、呼吸を止めたかのように静かだった。
しばらくして、彼女がぽつりと口をひらく。
「軌道共鳴って、知ってる?」
アスは驚いて顔をあげる。
「……ボクも、今それ考えてた」
彼女は、何も言わずに空を見上げた。
アスも同じように、黙って空を見た。
「……偶然、会う人っているよね」
「いるね」
「そういうのって、なんか星が回ってるのと似てる気がして……
ちゃんと話してないのに、わかる気がする人。……理由もなく」
彼女はうっすらと目を細めた。
その横顔は、空よりも静かだった。
風がまた吹いて、金木犀の香りがふわりと舞った。
少しの沈黙のあと、彼女が言う。
「……アスくん、喉、乾かない?」
アスは、ほんの少しだけ考えてから、うなずく。
「うん。乾く」
「そこにカフェがあるから……お茶しよ?」
アスは、またうなずいた。
小道を出て、並んでカフェの前に立ったときだった。
「……あれ? アスとお姉さんだ」
タケルの声がした。
見ると、カフェの入口にタケルと兄が立っていた。
兄は少し驚いたように目を見開いてから、すぐに笑った。
タケルが首をかしげる。
「なんでふたりでいるの?」
アスはひとことだけ答えた。
「……軌道共鳴」
タケルは「なにそれ?」と聞き返す。
彼女はくすっと笑った。
「そこの公園で偶然会ったの。
喉が乾いたから……お茶しよって」
兄が笑って言う。
「俺たちも三時のおやつ。……じゃあ、みんなで」
タケルがにこっと笑った。
テーブルについた四人。
アスの目の前には、水の入ったグラスがひとつ。
金木犀の香りがまだ、彼女のまわりにふわりと残っていた。
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近すぎず、離れすぎず、
でも、確かに“同じリズム”でまわっている。
アスが名づけたその感覚──
きっとそれが、「想いが届いている」ということなのかもしれません。




