第107話『おくりもの後編〜とこしえの今』
琥珀に閉じ込められた太古の花を見つめながら、
タケルたちは「時間」について考えはじめます。
永遠って、止まったもののこと?
流れているもの?
それとも、どこにもない“感じ方”のこと?
このお話では、夕暮れのレストランにたゆたう時間のなかで、
それぞれの“時間のかたち”をそっと描きます。
レストランの窓の外は、もう海と空の境目もあいまいで、
遠くにゆれる漁火が、ぽつりぽつりと灯っていた。
「……この中の花、咲いたまんまで止まってるんだよね」
タケルが、彼女の胸元の琥珀を見つめながら言った。兄から貰った琥珀のネックレス。彼女はさっそく身に着けていた。
琥珀を少し手に取りながら、タケルに微笑んだ。
「うん。きっと、何千年も前に咲いた瞬間が、この中に閉じ込められてる」
アスが、グラスの水を揺らしながらぽつりと言った。
「止まってるのに、なくならない。
……それって、ちょっと“永遠”に似てるよね」
タケルが首をかしげる。
「永遠って、死なないことじゃないの?」
アスはしばらく考えてから言った。
「……ずっと“今”のままっていうのが、永遠なんじゃないかな。
動かないのに、消えない時間。
琥珀の中の花は、もう枯れることも咲き直すこともない。
でも――ずっと咲いてる」
タケルは、グラスの水を見つめながら言った。
「それって……悲しくない?
ぼくは、やっぱり咲いたら、枯れて、また咲いてほしい。
ずっと同じなの、ちょっとさびしい」
兄がそっと口をひらいた。
「仏教ではね、“とこしえ”って言葉があるよ。
でもそれは、“止まってる時間”じゃないんだ。
変わりながら、続いていくこと。
枯れて、土になって、また花が咲く。
そういう“ずっと”のことを、仏教では“常”って言ったりする」
彼女が静かに頷いた。
「……そう考えると、琥珀の中の花は、
“永遠のなかに閉じ込められた一瞬”なのかも。
でもわたしたちの“今”は、動いてる。流れてる。
だからこそ――美しいって思えるのかもしれない」
アスは、外の海を見ながら言った。
「じゃあ……
“永遠”って、動かない花で、
“時間”って、動いてるわたしたち、かな」
兄がふっと笑った。
「どちらも、大切だね。
止まっていることも、動いていることも。
想い出が残るのも、心が動くのも、どちらもちゃんと“時間”の中だ」
タケルは、うんと小さく頷いた。
そして琥珀を見ながら、そっとつぶやいた。
「……この中の花、ぼくらがいなくなっても、ずっとここにいるのかな」
アスが答えた。
「いるかもしれないし、いないかもしれない。
でも、今日こうして見たことは、ぼくらの中に残る。
それも、ちゃんと“永遠”だよ」
彼女の翡翠の耳飾りが、
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“永遠”とは、何かが止まってしまうことではなく、
その想いが、どこかに届きつづけることなのかもしれません。
琥珀の中に咲く花、記憶のなかのやさしさ。
それらはきっと、時間が流れても、心の中では消えない。
動き続ける今。
そして、動かずに残り続けるもの。
その両方があるからこそ、
“時間”はこんなにも切なく、そして、美しいのかもしれません。




