第107話『おくりもの前編〜琥珀』
“偶然”ってなんだろう。
道に落ちている石を拾うことも、
誰かと出会うことも、
すべては偶然?
でも時に、人と人のあいだには、
長い時間を超えて「とどくべきもの」が、ちゃんと届くようにできているのかもしれません。
今回の舞台は、海辺のレストラン。
夕暮れの光に包まれた中で、
ひとつの贈り物が、静かに“その人”へと届きます。
海沿いの小さなレストラン。
車を停めた時には、夕焼けが窓のガラスにうっすら映っていた。
窓際の席に、彼女がいた。
静かに笑いながら、手を振った。
「今日は博物館、どうだった?」
彼女の声に、タケルが笑顔で答えた。
「楽しかった! 兄ちゃんがお土産まで買ってくれたんだ」
アスも隣で小さく頷いた。
二人の様子に、彼女は柔らかく微笑んだ。
兄は、思い出したように紙袋を取り出して、彼女に差し出した。
「……はい、お土産」
「え、わたしにも? いいの?」
紙袋を受け取り、そっと中をのぞく彼女。
中には、淡い黄金色のネックレス。
琥珀のなかに、小さな太古の花が閉じ込められていた。
「わぁ……琥珀……きれい……ありがとう」
タケルが、興味深そうにのぞき込んだ。
「へぇ、これって本物の花なんだ……虫が入ってるやつもあるよね? これは花だ……」
アスも顔を寄せる。
「……ほんとだ、花だね」
少し黙って、それからアスはぽつりと言った。
「……琥珀ってさ、数千年前から“誰に贈られるか”が決まってる、贈り物みたいだよね」
「え?」
彼女が顔を上げる。
アスは、夕暮れの海を見ながら続けた。
「この琥珀も、太古の森で花が閉じ込められたその瞬間から、 ずっとずっと、時間をかけて…… 今日、この日、お姉さんに届くって、決まってたんだと思う」
兄もタケルも、言葉を失ってその言葉を受け止める。
彼女は、そっとそのネックレスを胸元に当ててみた。
そして、静かに目を閉じた。
風の音も波の音も、全部が止まったような一瞬。
それは、まるで琥珀のなかに閉じ込められた、永遠の“贈り物の瞬間”だった。
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琥珀は、太古の森が閉じ込めた一瞬の記憶。
その記憶が、数千年の時を超えて「今」へ届く。
アスの言葉のように、それは偶然ではなく、
ずっと前から“決まっていた贈り物”なのかもしれません。
誰かのために準備されていた出会い。
誰かのために用意されていた言葉。
それが、たしかに“とどく”瞬間。
その静かな奇跡が、この回にはそっと描かれています。




