第106話『博物館編〜かわらないモノ、かわるモノ後編』
博物館の帰り道。
小さなおみやげがきっかけで、三人は「変わる」と「変わらない」について話しはじめます。
同じであることと、違うこと。
変化の中に、本当の“その人らしさ”があるのかもしれません。
車の窓の外には、夕方の光がのびていた。
タケルは、ぬいぐるみの背中をなでながら言った。
「でもアス……変わるって、なんだろう」
「うん?」
「中身が一緒でも、見た目が違うと“ちがうモノ”に見えるって、不思議じゃん。
でも、もしかしたら“見え方”が変わってるだけかもって、いま思ったんだ」
アスはポスターを抱きかかえたまま、静かに頷いた。
「変わるって、たぶん、“見る位置”も変わるんだと思う」
「……見る位置?」
「たとえばこのポスターも、丸めてたら棒だけど、開いたら“図”になるでしょ。
どっちが正しいかじゃなくて、“どう見るか”がそのときどきで変わるんだよ」
「へえ……じゃあさ、ぼくも、怒ってるときと笑ってるとき、ぜんぶ“タケル”なんだよね」
「そう。でも、見てる人によって、“きみの形”が変わる」
「……ちょっと難しいけど、おもしろいかも」
運転席の兄はふと、ミラー越しに二人を見て笑った。
「ほんと、すごいな。
こういう話、子どもの頃もっとちゃんと聞いてたら、今よりちょっと賢かったかも」
アスは窓の外を見たまま、ぽつりと言った。
「かわっても、かわらないモノがある。
かわらないように見えて、じつはかわってるモノもある。
……人間って、そういう矛盾の中で生きてるのかもね」
タケルは考えこんだ。
そして、アンモナイトの標本をそっと両手で包み込んだ。
「恐竜の時代から残ってるモノって、
なんか……“かわらないモノ”に見えるけど。
でも本当は“かわったあとに、のこったモノ”かもね」
兄はクスッと笑いながら言った。
「そのとおり。
かわらないって、ただ止まってることじゃないんだよな。
“かわっても、残った”ってことなんだろうな」
車は夕陽のなかを、静かに走っていった。
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「変わる」とは、ただ形が変わることではなく、
見え方や受けとめ方も変わっていくこと。
でも、変わっても残るものがあるとしたら——
それが本質、なのかもしれませんね。




