第106話『博物館編〜かわらないモノ、かわるモノ前編』
博物館のおみやげコーナー。
タケルは恐竜のぬいぐるみとアンモナイトを、アスは「同素体」のポスターを選びました。
選ぶものは違っても、その奥にある“惹かれる理由”には、小さな自分自身が映っているのかもしれません。
今回のテーマは、「変わる」と「変わらない」。
三人の、静かな問いかけの時間です。
ミュージアムショップは、鉱石や化石、恐竜グッズであふれていた。
「二人とも、好きなモノ選んでいいよ」
兄が言うと、タケルとアスは顔を見合わせて目を輝かせた。
「やった!」
タケルは迷わず、黄色い恐竜のぬいぐるみと、小さなアンモナイトの標本を手に取る。
アスは真剣な目で棚を見つめていたが、やがてひとつのポスターを手に取った。
「……これにする」
兄がその様子を見て、笑いながら言った。
「それ、好きなんだ?」
アスはうんと頷いて、買ってもらったポスターを丁寧に丸めた。
***
車に戻ると、タケルは後部座席でぬいぐるみを抱きしめながら言った。
「ねぇアス……“同素体”ってなに? そのポスターのやつ」
「同じ元素なのに、構造がちがう物質のこと」
「……?」
「たとえば“炭素”っていう元素があるでしょ。
それはね、つなぎ方がちがうだけで、やわらかい鉛筆の芯にもなるし、かたくてキラキラしたダイヤモンドにもなるんだよ」
タケルは恐竜のぬいぐるみにほおを当てながら考えた。
「え? でも同じ“炭素”なのに、全然ちがうじゃん。見た目も性格も」
「でも“中身”はおなじ。だから、構造がちがうだけで“別のモノ”に見える。
……人間も、そんなところあるかもね」
「人間も!?」
「たとえば、タケルが怒ってるときと、笑ってるとき。
ちょっと別の人に見えるけど、それでもタケルはタケル。
構造……というか、そのときの“つながり方”で変わるんだと思う」
運転席でその会話を聞いていた兄が、前を向いたままクスクス笑った。
「……なに?」
タケルが聞くと、兄は笑いながら言った。
「いや……なにより俺の一番の疑問は、アスって本当に小学生なの?」
アスは笑わなかったけれど、小さくうなずいた。
「いちおう」
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“同じで違う”“違って同じ”。
同素体の話は、人間の心にもどこか似ています。
形や表情が変わっても、変わらない何かがある。
それが「その人らしさ」なのかもしれません。
アスのことばに耳を傾ける兄の姿にも、
やわらかく受けとめる知性がありました。
何気ない会話のなかに、
変化と本質がそっと浮かびあがってきます。
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