第105話『偶然でないこと (博物館編)②』
博物館のカフェで、飲み物を飲みながら語り合うタケル、アス、兄ちゃん。
恐竜はどこから来たのか。言葉はなぜ生まれたのか。そして――偶然って、なんだろう?
何気ない会話が、ふと宇宙と命の深いところに触れていきます。
展示をひと通り見終えた三人は、
博物館の隅にある静かなカフェに入った。
窓際のテーブル席に座ると、冷たい飲み物が置かれた。
氷のカランという音と、遠くで響く館内アナウンスだけが、静かに流れる。
タケルがストローで飲み物をくるくると回しながら、ぽつりと口をひらいた。
タケル「兄ちゃん、恐竜ってどこからきたの?」
兄「う…ん、生命の進化の途中で生まれたんだよ。命が偶然、続いてきて…その途中に恐竜がいたんだよ」
アス「ねぇ兄ちゃん、偶然ってなに?」
兄は少し驚いたようにアスを見た。
兄「地球がいい場所にたまたまあって、そこに水があって太陽の光があって……。
すべての条件が重なって、その偶然が積み重なった。
つまり、何の因果関係もなく起こったってことかな」
アス「じゃあボクは偶然生まれて、偶然タケルと同じ年で、偶然タケルが兄ちゃんと兄弟で、偶然ボクとも出会ったってこと?」
タケル「……なんか怖い。偶然じゃない気がする」
兄は黙ったまま、二人の顔を見た。
「確かに、偶然だけでは考えられないね……」
そう言って、少し考え込む。
アスは、窓の向こうを見つめながら言った。
「ボクたちがこうして言葉を交わしていることも、言葉が生まれたことも偶然?
でも……全部が偶然だとしたら、“偶然”って考えること自体が、もう偶然じゃない気がする。
なんだか……意味づけしているようにボクは感じる」
兄はその言葉を、ゆっくりと味わうように黙って聞いていた。
「……すごいな。面白いよ」
兄はアスを見つめて、楽しそうに微笑んだ。
偶然の重なりで生まれた命。
でも、出会いも言葉も、ただの偶然と呼ぶにはどこかあたたかすぎる。
その静かな奇跡をそっと包みこんだお話。




