第105話『地球の中心 (博物館編)①』
「地球の中心は誰?」 そんな問いは、子どもだからこそ、まっすぐに聞けるものかもしれません。
人間は多くを作り、考え、記録し、歴史を残します。 でも、作らなかったものたち――恐竜や貝や葉っぱの痕跡も、たしかに“そこにいた”という存在を語っています。
タケルとアスが出会った展示室の静けさは、 「つくること」と「残ること」について、少し考える時間をくれるのです。
車の窓から差し込む光が、アスの頬に柔らかく当たっていた。 後部座席のタケルは、足をぶらぶらさせながら外を眺めている。 その隣でアスが静かに座り、運転席の兄がラジオのボリュームを少し絞った。
「今日は恐竜展だって」 兄が言うと、タケルがぴょんと背筋を伸ばす。
「ほんもの? 化石?」 「もちろん本物だよ。触れないけど」 「触れなくてもいい!」
そう言ったタケルの声が、ちょっとだけ車内を明るくした。
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博物館の展示室。 大きなティラノサウルスの骨格標本を見上げながら、タケルはつぶやいた。
「昔は……地球の中心って、恐竜だったのかな」
アスはその言葉に首を傾げた。 「地球の中心って、どういう意味?」 「なんかさ、一番すごい存在っていうか、主役っていうか……」
アスは少し笑って言った。 「じゃあ今は人間が中心?」 「うん。だって人間がなんでもつくってる。建物も、車も、ルールも……宇宙のことも調べてるし」 「“つくる”ことが中心なの?」 「うーん……そうなのかな」
ふたりは並んで、化石の並ぶ展示室を歩いた。
アンモナイトの化石、翼竜の爪、植物の葉の痕跡…… アスは小さなアンモナイトの前で立ち止まり、じっと見つめる。
「ねえ、これって“生きてた”ってことの証拠なんだよね」
タケルは小さくうなずく。
「でもさ、これ……誰かに見せるために残ってるのかな。 それとも、“いた”ってことが、ただここにあるだけなのかな」
アスの声は小さく、静かだった。 タケルは答えられず、代わりにゆっくり展示室を見渡した。
恐竜の骨、岩に埋まった葉っぱのかたち、変わらずそこにあるものたち。
そして、ぽつりとつぶやいた。
「……でもさ、恐竜だって、何万年もこうして残ってる。 何かを“つくる”ことだけが残るんじゃないのかもな」
アスはふとタケルの横顔を見て、小さく頷いた。
「ねえタケル。もし人間がいつかいなくなっても、地球はきっと、何も言わないまま回り続けるね」
「……うん。静かに、何も変わらない顔で」
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恐竜の時代には、人間なんていなかった。 アンモナイトも、翼竜も、ただ“そこにいて”、やがて土に還っていった。
それでも彼らの形は今、化石というかたちで私たちの前に現れ、声も出さずに語ります。
地球の中心は、いつも“今”を生きているもののようで、 でも実は、過去の静けさのなかにも、確かな中心があったのかもしれません。
タケルとアスの問いは、誰もがふと立ち止まるきっかけになるのではないでしょうか。




