第103話『星になった少年たち』
人の命は、どこで違いがつくのだろう?
子どもの目でしか見えない「不条理」と「悲しさ」を、静かな気づきとして描いた回です。
タケルの無垢な心が、読み手の胸に届きますように。
土曜日の朝。
今日は兄ちゃんが遊びに連れてってくれるって言ってた。
だけど、まだ来ない。
「それまでテレビでも見ようかな……」
タケルは本棚の下から、ちょっと古いDVDの箱を見つけた。
『縞模様のパジャマの少年』
「へえ……なんか、かわいいタイトル」
パッケージには子どもが並んで写っている。
きっとファンタジー映画かおとぎ話。
タケルは何も知らずに、再生ボタンを押した。
──そして、しばらくして。
画面の中の出来事は、思っていたのとはまるで違った。
映像のなかには鉄の柵があって、高い塀があって、おそろしい兵隊たちがいた。
その奥に、縞模様のパジャマを着た子どもたちがいた。
そのひとりと、主人公の男の子が、こっそり友だちになる。
タケルの手が、じっと止まる。
あたたかい友情が芽生えていくほどに、
画面のなかの世界がどんどん冷たく、こわくなっていく。
ラストの場面。
ふたりは手を取りあって、暗い小屋のなかへ入っていく。
でも、もう戻ってはこない。
映像が終わり、エンドロールが流れても──
タケルはしばらく動けなかった。
知らなかった。
こんな世界があったなんて。
同じ命なのに、同じじゃないって決められていたなんて。
涙がこぼれた。
そのとき、玄関のドアが開いた音がした。
「タケル、来たよー」
兄の声だった。
タケルはそっと袖で目をぬぐい、兄の方を見た。
兄はすぐに何かを察したようだった。
タケルの手元にあるDVDを見て、小さく言った。
「……観たんだね。縞模様のパジャマの少年。」
タケルはうなずいた。
そして、ポツリとつぶやいた。
「ぼくが大人だったら、助けたい。
あの子のことも、あそこにいた人、みんなのことも……」
兄は、なにも言わなかった。
ただ、そっと近くに座った。
タケルは窓の向こうを見た。
晴れた空に、小さな白い雲が浮かんでいる。
「……あの子たち、どこにいったのかな」
「ちゃんと、星になったかな……?」
兄は静かに、うなずいた。
空は青くて、風はとても静かだった。
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「縞模様のパジャマの少年」は、ナチス・ドイツの時代を背景にした物語です。
知らずにそのDVDを手に取ったタケルの純粋さ、そして「助けたい」と願うまっすぐな気持ち。
その視点こそが、物語の本質を照らす光かもしれません。




