第102話『星のまばたきの理由』
ある夜ふとした疑問「星はなぜまばたくのか?」から始まる小さな対話。子どもの視点から見た世界の“ゆらぎ”を、科学と哲学と仏教がそっと寄り添うように描きます。
『なんで星って、まばたきするの?』
タケルがそう言ったのは、夜の境内を歩いていたときだった。頭の上には澄んだ空が広がり、星がたくさん瞬いていた。アスは少し考えてから、立ち止まって空を見上げた。
「地球の空気が揺れてるからだよ。空気が星の光をゆらゆら曲げるんだ。だから、まばたきしてるように見えるの」
「え、ほんとは星って、まばたきしてないの?」
「うん。宇宙ではね、まばたきなんかしないよ。ずっと黙って光ってる。まるで呼吸しない命みたいに」
タケルは「へぇ〜」と言いながら、首をかしげた。
その夜、家に戻ると兄が縁側にいた。小さな本を片手に、空を見ていた。
「ねえ、兄ちゃん。星って、なんでまばたきしないのに、まばたきして見えるの?」
タケルがそう聞くと、兄は少し笑って、本を閉じた。
「仏教ではね、“見るもの”と“見られるもの”のあいだには、いつも“ゆらぎ”があるって考えることがあるよ」
「ゆらぎ?」
「うん。ほんとうの姿は、静かで、変わらないのに、見る側の心や世界が揺れてると、いろんな風に見える。それを“まばたき”って呼んでもいいかもしれないね」
アスがぽつりと、横から言った。
「宇宙から見れば、星はまばたきしない。でも地球から見れば、まばたく。世界はどこから見るかで変わるんだよ。僕たちは、ゆらいでる世界の中で、生きてる」
タケルは星を見上げた。
「じゃあ、ぼくが泣いてたときに見た星は、ほんとは泣いてなかったのかな?」
アスと兄は顔を見合わせ、にこっと笑った。
「でも、そのときのタケルには、星が泣いてるように見えたんでしょ?」兄がやさしく言った。
「それなら、それが君の星なんだよ」アスが続けた。
静かに、夜風が吹いた。星はまばたきしながら、まるでタケルたちの話を聞いているようだった。
タケルは思った。 ほんとうの姿がどうであっても、 そのとき心に映った光は、 たしかに“ぼくの星”だったのだ、と。
星がまばたくのは空気のせい。でも、それは人間の目と心がゆらいでいるからこそ見える美しさなのかもしれません。兄が言ったように、「ほんとうの姿」と「見える姿」のあいだには、きっと私たちの心が映っています。




