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第18話「ぼくをうごかしてるの、だれ?」

走る、食べる、笑う、怒る。

あたりまえのようにやっていることだけど、「じぶんでやってる」と思ってるだけかもしれません。

それって本当に「じぶんがやってること」なのかな?

今回は、秋の風のなかでふと感じた「自分って、誰が動かしてるの?」というふしぎな感覚から始まります。

タケルとアスが見つけるのは、「自分を手放す」ことで見えてくる、やさしくて静かな世界です。

秋の風が、夏の名残を少しずつさらっていくころだった。

校庭のすみに咲いたコスモスが、風にふるえている。


「位置についてー、よーい……ドン!」


先生の声と同時に、タケルは地面を蹴った。

でも、不思議な感覚があった。足が、勝手に動く。心とは別に、体が走っていくような。

風が耳を切り、ゴールの白線が近づいてくる。

走っているのに、自分じゃない誰かが体を動かしているような——そんなへんな感じ。


放課後。ランドセルを背負いながら、アスに話してみた。


「アス、今日の体育、へんな感じだったんだ。走ってるのに、自分で動かしてる感じがしなかった」


アスはすぐに目をきらりと光らせた。


「それ、たぶん、“識”が“色”からズレてたんだよ」


「しき? いろ?」


「五蘊って知ってる? 仏教でね、人って“からだ(色)”、“感じ(受)”、“思い(想)”、“行動(行)”、“意識(識)”でできてるって考えるんだ。でも、それってバラバラなのに、ぜんぶ“じぶん”って思いこんでる」


「じゃあ、“ぼくが走ってる”っていうのも……」


「ほんとは、走ってる体があるだけで、それを“あとから見てる意識”が“ぼく”なんじゃない?」


タケルはちょっとゾクっとした。


その日の夜、鏡の前に立って、自分の手をゆっくり動かしてみた。

動かしたあとに、「あ、ぼくが動かした」って思う。不思議と、意識がちょっとだけ遅れている気がする。


次の日の帰り道、アスが言った。


「“手放す”ってさ、じぶんをなくすんじゃなくて、“自分”という思い込みから自由になることかもね」


「それって、こわいこと?」


「ううん。たぶんね……そうなったとき、世界はもっとやさしくなる」



もう一度、体育の時間。

タケルはゴールの白線を見ずに、ただ風の中を走った。


もう“走ろう”とも思わなかった。ただ、風にまかせて、体が自然にうごく。


そこには、なにもなかった。けれど、たしかに“生きてる”という感覚だけがあった。


---


ぼくのうちゅうかんさつノート


きのう、ぼくは“ぼくが走ってる”と思った。

でも今日、ぼくは“走ってるぼく”を見ていた。


もしかしたら、ぼくはいつも、ちょっとだけあとから“じぶん”を作っているのかもしれない。


じぶんを手放したとき、ぼくは、ぼくじゃないみたいだった。

でもそれは、ふしぎと、さびしくなかった。


風のなかで、ぼくはただ、そこにいた。



「ぼくをうごかしてるの、だれ?」なんて、ちょっと変なタイトルに見えるかもしれません。

でも、ふだん気にしないだけで、私たちは本当に自分を動かしているのか、どこまでが“じぶん”なのか、わからないまま生きています。


仏教でいう“五蘊ごうん”では、私たちは「体」や「思い」や「意識」の集まりであって、それをひとつにまとめて「これが自分だ!」と思っているだけだと言います。

けれど、その思いこみをそっと手放してみると、

そこには、“がんばらなくても、もうすでに存在している”という、やさしい感覚がひろがっていました。


このお話が、日常のなかでふと立ち止まりたくなるような、そんな風を運べたならうれしいです。

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