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第15話「ぜんぶ知ったら、おわり?」

夏休みの終わりが近づくと、なぜか世界が静かに閉じていくような気がします。

何も変わっていないのに、空の色も、風のにおいも、少し違って感じるのはどうしてでしょう。

もしかしたらそれは、子どもにとっての「小さな終末」なのかもしれません。


今回は、そんな“終わり”について、アスとタケルが出会ったあるおじいさんとの不思議な出来事を通して考えます。

そして、「知ることの先にあるもの」について——。

夏休みの終わりが、近づいていた。

空の色も風のにおいも、ほんの少し前とちがって感じる。

タケルは、なぜか胸の奥がざわざわしていた。


「なんかさ……夏休みの終わりって、世界が終わるみたいじゃない?」


そうつぶやくと、アスが言った。


「うん。子どもにとっては、世界の終末ってやつだね」


「え、終末って……そんな大げさな」


「でもさ、よく考えると……“世界の終わり”って、そんなふうに始まるんじゃない? 静かに、気づかれないまま」


アスの声が風にまぎれて消える。

その一言が、タケルの中に、何か不思議な予感を落としていった——。


---


お寺の境内には、毎日同じ時間にお墓の前に立つ、古い帽子をかぶったおじいさんがいた。

タケルはその人をずっと「ちょっと変な人」と思っていた。なぜなら、昼間に話しかけても、まるで会話がかみ合わないのだ。


でも、ある夕方のこと。

境内でアスと話していたタケルは、そのおじいさんと目が合った。


「おまえさん……見てしまったことがあるか?」


おじいさんが、ふいに口を開いた。昼間の様子とはまるで別人のように、言葉がはっきりしていた。


「え……?」


「この世の終わりだよ。人間が進みすぎた先にある、“知りすぎた世界”。

知ってしまったら、もう戻れんのだ……決して知ってはならぬ人類の終末を、わしは……見てしまった」


「それって……」


「未来というやつはな、知れば知るほど近づいてくる。

終わりを知った人間は、そこへまっすぐ歩きはじめる。

だがの……終わりとは、“すべてを知ってしまった状態”そのものなのかもしれん。

近づきすぎてはならぬよ。終わりは、光のような顔をしているが……まばゆい絶望じゃ……」


タケルは返す言葉がなかった。

ふと横を見ると、アスも黙っておじいさんを見ていた。

そして次の瞬間、おじいさんはすっと背を向けて、いつものようにゆっくり墓の方へ歩いていった。

昼間のような、うわごとのような声をまたつぶやきながら。


——あの人は、ほんとうに“知ってしまった”のだろうか?


アスがぽつりと言った。


「進歩ってさ、すごくスピードが上がってる。

きっとそれは、終わりが決まってるから。

ゴールがあるから、加速していく。

……ゲームもそうだよね。ラストがあると、進むの速くなるでしょ?」


「じゃあ、世界も?」


「うん。観測者がいたから、世界は始まった。

じゃあ観測者が“全部”を見てしまったとき……それは、ゲームクリアかもしれない」


タケルは、自分の胸の中に広がる不思議なざわめきを、言葉にできずにいた。


だけどなんとなく、世界は、見ること・知ることに向かって突き進んでいるような気がした。

そしてその先には、たしかに「終わり」が待っている気もした。


---


ぼくの うちゅうかんさつノート


しらなければよかった、って思うことがある。

でも、しらなければ出会えなかった、って思うこともある。

この世界の最後が、“すべてを知ること”なら、

ぼくはまだ、すこし手前で立ち止まって、

空のにおいや、誰かの声を感じていたい。

そのほうが、きっと“今”に近い気がするから。

すべてを知ることができたら、世界は終わるのかもしれない。

でも、タケルは“まだ知らないこと”がある今の世界に、とどまろうとします。

知らないということは、恐ろしいことでもあり、豊かなことでもあります。


このお話では、観測・終末・未来・加速する知性……そんな難しいテーマを、子どもたちの目線からそっとのぞいてみました。

人類の未来は、どこまで進めるのでしょう。

そして、どこで立ち止まることができるのでしょうか。

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