第013話『見たくないのに、見てしまう』
少し寒い秋の夜、タケルの家にアスと兄が集まった。
「怖い話をしよう」というのは、兄の提案だった。
兄が持ってきたのは、ズジスワフ・ベクシンスキーの画集。
静かにページをめくるうち、ある“噂”が話題にあがる。
——ネットでこの絵を3回見たら、死ぬらしい。
それはほんとうの呪い? それとも、自分自身の心の奥にある何かが、動き出すのか。
兄が持ってきた古びた画集を、三人はこたつに入って囲んでいた。
タケルがページをめくると、骨のような塔の絵、崩れた街並み、顔のない人々……。
「これ、ほんとに人間が描いたの?」と、タケル。
アスは少しだけ顔を近づけ、静かに言った。
「夢の断面を見せられてるみたいだね。寝てるときの、“死に近い”部分だけを集めた夢」
「やめてよ、そんなこと言わないで……怖いじゃん」
兄がスマホを取り出して、言った。
「ネットにこの絵の画像もあってさ……
“ネットで3回見ると死ぬ”って噂になってるの、知ってる?」
「え、マジで?」とタケルが声を上げる。
アスは、にやっと笑ってスマホを受け取った。
「……でも、それ、実際に死んだ人はいないんでしょ?」
「たぶん。でも、“見るたびに悪いことが起こる”って言う人はいるみたい」
タケルはスマホの画面をのぞいて、すぐに顔を背けた。
「うわ……やだ……なんか、気持ち悪い。画面から、空気が出てるみたいな感じ」
アスはじっと画面を見て、言った。
「“呪い”って、たぶん情報でできてる。誰かの強い感情が、データに宿るんだよ」
「感情が感染するってこと?」と兄が聞く。
「うん。言葉や映像を通して、他人の感情が自分にうつる。それが“呪い”の正体かも」
タケルは、画集を閉じながらぼそりとつぶやいた。
「……でも、ほんとに見たくないのに、なんで見ちゃうんだろうね、こういうの」
アスがぽつり。
「“見る”ってことは、触れることだからじゃないかな。心の奥の、知らない自分に」
しばらく三人は黙っていた。
こたつの中はあたたかいのに、背中がすこし寒かった。
怖い絵や不吉な噂は、時に人の心を強く揺らします。
でも、それがただの“怖い話”で終わらないのは、
自分の中にひそむ“触れたくない感情”とつながっているからかもしれません。
「呪い」とは、遠くのものではなく、
ぼくらの中に眠る何かをゆっくりと目覚めさせる、
そんな“見ること”の力なのかもしれない、とアスは言うでしょう。




