第012話『運、うんめい、そして ぜんせ』
「運がいい」とか「運が悪い」って、よく言うけれど。
ほんとうに運ってあるのかな?
タケルがそんな素朴な疑問を抱いた日、アスが見せたのは“ある小さな石”だった。
石と運と過去の物語。
運命とは何か、そしてその“前”とは……。
その日、体育の跳び箱でタケルは盛大にすっころんだ。
「ついてないなあ……」
お寺への帰り道、タケルはアスにぼそっとつぶやいた。
「ぼくって、運わるいのかな?」
アスは道ばたの小石をひとつ拾った。
「これは?」
「……石?」
「うん。でもこれは、きみが今日つまずくために、何百年も前からここにあった石かもしれないよ」
「え?」
アスはその石を指でころころ転がしながら言った。
「運って、ほんとうは“確率”でも“偶然”でもない場合がある。
たとえば仏教では、“カルマ”っていう考えがあって、今起きたことは、ずっと昔にまいた“タネ”の結果かもしれないんだ」
「でも、それって……。前世でぼくが悪いことしたら、今のぼくが跳び箱でころぶの?ひどくない?」
「そう。でも逆もある。
きみが知らない前世で、誰かに花をあげたから、今、道で花を拾うかもしれない」
タケルは、アスの手のひらにある石を見つめた。
「じゃあさ、前世って……ほんとうにあるの?」
アスは少し考えてから言った。
「“ある”って証明はできないけど、“あるとしたらどう感じるか”は、今のぼくたちで決められると思う」
風が吹いた。
境内に着くころには、夕日が長い影を落としていた。
タケルは立ち止まってぽつり。
「……でもさ。運って、なんだかフェアじゃないよね。
ぼくはいい親に生まれたけど、そうじゃない子もいるし」
アスはうなずいた。
「たしかに。だけど、“運命”は変えられなくても、“意味”は変えられる。
ぼくらが、ここでこうして話してることも、
もしかしたら前世からの“借り”を返してる最中かもね」
「……“借り”?」
「うん。命ってそういうバランスでできてる気がする。
だから、ぼくは運を、ただのラッキーアンラッキーじゃなくて、“巡り”だと思ってる」
タケルはその言葉を聞きながら、ポケットの中の小石を握りしめた。
あの石が、これからどんな“巡り”をつくるのか、少しだけ気になった。
運、運命、前世の因果。
すべてが証明できないからこそ、私たちは「意味」を感じようとします。
それはときに理不尽で、でもどこか温かい。
アスのように、それを“巡り”と呼べるなら、運命はきっともう少しやさしい。




