第010話『そのひは、なにも悪くなかったのに』
世の中には、ちゃんと理由のあることと、
なにも悪くなかったのに起こることがある。
アスが、お寺の本棚から1冊の古い絵本を見つけて持ってきた。
『ギャシュリークラムのちびっ子たち』──エドワード・ゴーリー。
「Aはエイミー、階段から落ちた」
「Bはベイジル、くまにたべられた」
タケルは読みながら、笑えなかった。
ページをめくるたびに、淡々と子どもたちが消えていく。
「……こわいよ。なんで……?」
「理由は、ないんだよ」アスが答える。
タケルは、学校の給食で隣の席の子が牛乳をこぼして怒られてたのを思い出した。
あれはタケルが手をぶつけたからだった。でも誰も見てなかった。
その子は泣きそうな顔で、ずっと黙ってた。
「なんか……“そのひは、なにも悪くなかったのに”って気持ち、わかる気がする」
タケルが言った。
アスはうなずいた。そして、小さくつぶやく。
「本当にどうしようもないことって、ある。
たとえば、生まれた家とか──」
タケルが横を見た。アスの横顔は、静かだった。
「親を選べる子どもはいない。
でも、大人たちは“その子のせい”にしたがる」
「どこかおかしかったんじゃない?って言ったりね」
アスは、何かを思い出すように言葉を続けた。
「食べられない日がある子もいる。
父親がいる、母親がいる、けど
“家”はない子もいる。
どこに行っても居場所じゃない子がいる。
でも、誰もそれを“異常”って思わない。
その子が“静かでいい子”なら、なおさら──
誰も、助けない」
タケルは目を伏せた。
アスの声は、淡々としていたけれど、なぜか痛かった。
その帰り道、アスのお母さんと弟が道ばたの花を見ていた。優しい笑顔で花ではなく弟を見つめるアスのお母さん
風に揺れて、匂いもないような小さな草花。
アスが小さく言った。
「……それでも、あの子たちは生きてる。
消えずに、ちゃんと、ここにいる。
理由がなくても、生きていていいって、
世界が言ってあげなくちゃいけないのに」
タケルはそのとき、なぜかとても悲しい気持ちになった。
子どもは、自分のいる場所を選べない。
理不尽を理不尽のまま受け取って、それでも生きていくしかない。大人は子供を守る存在でありたいですね




