表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
108/465

第008話『なまえは、ぼくじゃない?』

お寺の仏間で、ぼくは自分と同じ名前の“誰か”の存在を見つけた。

タケルという名前は、ずっと前からあったらしい。

ぼくがつけてもらったものだけど、それはほんとうに“ぼくの名前”なんだろうか?

名前って、いったいなんだろう?

仏間のすみに置かれた、古い位牌。


タケルは、そこにうすれかけた文字を見つけた。


「……え?」


そこには、たしかにこう刻まれていた。


しゃく 健流たける


――たける。


自分と、まったく同じ名前。


「おとうさん、これ……」


父は、お経の本を片づけながら答えた。


「お前のひいひいおじいさんの名前だよ。立派な人だったんだよ」

「へえ……」


それだけのはずだった。


でもその晩、タケルは不思議な夢を見た。


――まったく知らない場所。知らない服。知らない言葉。

だけど、なぜかとても懐かしくて。


誰かが呼ぶ。


「……タケル!」


目が覚めた。心臓がドクドクいっていた。


次の日、アスに話した。


「ぼくの名前、ずっと前にもあったんだって」

「知ってるよ。お寺の名前の記録は、全部“生”と“死”が並んでる。名前が繰り返されることもよくある」


「でもなんか、夢見たんだ。その人の夢かもしれない。もしかして、名前のせいで?」


アスはうなずくように小さく笑った。


「あるよ、そういうの。名前は“音”だからね。言葉の周波数が、その人の記憶にふれてしまうことがある」


「それって……こわくない?」


「ぼくは好きだよ。名前は、見えない“物語”を引っぱってくる。

もしかしたら君が夢で見たのは、記録に残っていない“生きていた誰かの一日”かもね」


タケルは少しこわくて、でもどこか、あたたかかった。


校庭で風が吹いた。


「あ、でもさ」


「ん?」


「“タケル”って名前、ぼくの兄ちゃんの名前から取ってるって聞いたことある」


「へえ。兄弟で、名前がつながってるのか。いいね」


アスは少し考えてから、こう言った。


「じゃあ、名前はやっぱり“継がれる情報”なんだ。血と、記憶と、響き。全部が、その名前に入ってる」


「……ぼくって、ほんとうに、ぼく?」


「わからない。だけど、“なまえ”を呼ばれたときに返事をする、それが君だよ」


「……ふうん」


そのあと、タケルはお寺の廊下を歩きながら、もういちどあの名前を小さくつぶやいた。


「……タケル」


まるで、遠くの“自分”に呼びかけるように。



名前って、ただの記号じゃない気がします。

呼ばれたとき、胸の奥が少しだけ反応する。

それは、過去に誰かが呼ばれた“音”の残響なのかもしれません。


アスの言うように、名前には記憶と物語が隠れている。

あなたの名前にも、どんな物語が流れているんでしょう?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ