第002話『きみはAIかもしれない』
教室のなかに、もしも「ほんものじゃない誰か」がいたら──?
ふとした会話の中に生まれる違和感、すこしズレたしぐさ、記憶のあいまいさ。
タケルとアスのちいさな疑いごっこが、いつのまにか本気になっていく。
「きみって、本当に人間?」
そんな問いから、ぼくらの“当たり前”が少しずつ、ゆれていく。
その日、タケルのクラスでは、道徳の時間に「AIの未来」について話し合っていた。
「AIは人間の仕事を手伝うだけじゃなくて、感情も持つかもしれないって」
先生の言葉に、クラスの何人かが「えー?」と声を上げる。
「でもそれって、ロボットと人間の区別、つかなくなるってことじゃん」
その瞬間、タケルのうしろの席のアスが、ぽつりとつぶやいた。
「……クラスの誰か、もうAIかもしれないね」
「え?」
「いや、たとえば。きみの隣の席の子が、もし精巧なAIだったら、きみ、気づける?」
タケルは思わず隣の席を見た。ユウダイくんはシャーペンの芯を出したり引っ込めたりしてる。
「……たしかに、たまに人間っぽくないな、あいつ」
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放課後。タケルとアスは学校の図書室の奥で、「チューリングテスト」の本を見つけた。
「人間とAIを区別するテストだって。質問して、相手が人間か機械か見きわめる……」
アスはにやっと笑った。
「テストごっこ、してみようよ。クラスの誰がAIか、調べてみたいでしょ?」
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次の日、ふたりは昼休みに“チューリングテスト”をはじめた。
「きみ、昨日の給食なに食べたか覚えてる?」
「失敗したことある?」
「うれしいときって、どんな気持ち?」
答えを聞いて、こっそりノートに「人間」「人間」「ちょっとあやしい」って書くアス。
「こうやって聞いていけば、ぜったい見つかるよ」
「……でもアス。ほんとにAIがいたら、完璧な答えを用意してるんじゃない?」
アスはしばらく黙って、それから、静かに言った。
「……もしかして、きみがAIだったら?」
「ぼくが!?」
「ほら、たとえば。タケルが、自分を人間だって思ってるAIだったら……その記憶も感情も、全部プログラムだとしたら、気づけないよね」
タケルはノートをぎゅっと握った。
頭の中で、「きみがAIだったら」という言葉が何度も反響した。
「チューリングテスト」とは、AIが人間らしさを持てるかどうかを試す有名な実験。
だけど、もし本当に完璧なAIがいたら、わたしたちはそれに気づけるのだろうか──。
この物語は、タケルとアスのちいさな観察から始まりますが、
観察しているはずのぼくら自身もまた、観察されているのかもしれません。
“疑うこと”は怖いけれど、
世界を深く見るきっかけにも、なるのです。




