第001話「未来のアスから」
未来から手紙が届いたら、信じる?
それが“自分”からだったら――なおさら、こわくなる。
「タケル、これ、ぼくに届いた手紙」
夕方、お寺の縁側。
アスは小さく折りたたんだ紙切れを出してきた。
「手紙? 誰から?」
「未来のぼくから」
「……出たよ。また変なこと言ってる」
「ほんとに。家のポストに入ってた。焦げくさい紙で、知らない文字のにおいがした」
「におい……?」
「あと、たぶんだけど、ぼくの字。今よりちょっとだけ上手くなってる感じの」
タケルは半信半疑で紙を受け取った。
そこには、こう書かれていた。
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> 『アスへ
この手紙を読むとき、たぶんタケルが隣にいる。
タケルが裏門の鍵を開けようとする。その瞬間、なにかが“ズレる”。
止めて。タケルには、“まだ生まれてない何か”を守る役目がある。
――未来のアスより』
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「え? タケルって、ぼくのこと?」
「そう」
「……なんで、そんなの知ってるの?」
「ぼくも、わからない。でも未来のぼくは、知ってるらしいよ。タケルが、その鍵を開けたらまずいってこと」
「ぼくが……鍵を開けたら、なにが起きるの?」
「たぶん、“本当じゃないほうの世界”に進んじゃうんだと思う。そういう分かれ道って、たまにある」
タケルは黙りこんで、手紙を見つめた。
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「……ねえアス」
「なに?」
「予言ってさ、当てることって普通できるの?」
アスは少しだけ笑って、言った。
「“当たる”んじゃなくて、“思い出す”だけかもしれないよ。未来はもう、どこかにあるなら」
「え……?」
「世界が“点”じゃなくて“線”でできてるならさ。
ぼくらは時間を前に進んでるつもりでも、本当は地図の上をなぞってるだけかもしれない」
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「でもさ……ぼく、開けるつもりなんてなかったんだけどな。裏門なんて」
「うん。でも“知らされる”ことで、それが選択肢に入っちゃう。
それが“予言”のこわさ。未来を変えるチャンスでもあって、呪いでもある」
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次の日。
タケルは、裏門の前に立っていた。
少し錆びた取っ手。鍵は、すこし浮いていた。
タケルは、手紙を思い出した。
アスの言葉も。
そして、そっと手を引いた。
開けなかった。
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「……アス、開けなかったよ」
帰り道で言うと、アスはうれしそうでも悲しそうでもない顔で言った。
「じゃあ、ぼくが君に手紙を渡した意味があったね」
「ほんとに未来のアスなの?」
「さあね。でも、そのおかげで未来は少しずれた。
どっちが“正しい”世界かは、あとになってみないとわからないけど」
未来は“点”じゃなく、“地図”かもしれない。
予言は、それを一瞬だけ見せてくれる“折り目”なのかもしれない。




