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お前の気持ちがわからない。~中間と中間の場合~  作者: 甲光一念


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6、心底面倒そうに

「平たく言えば、俺が元締めだからです」

「ふむ、君が元締めであるからこそ、私は君と結婚しようとしているわけだが、それが私が後悔する理由になり得るのか?」

「なり得るでしょうね。断言はできませんが、十中八九」


 新しく中間子をネットワークに入れるとなった際、その候補と俺は面談を行うわけだが、そこで俺が『この組織は信用ならない』と思わせるようなことがあってはいけない、というのはご理解いただけると思う。

 一応、長ということになっている俺が似た境遇の人間から信用を得るために必要なのは、同調だ。

 こいつは仲間だと、相手に思わせることが重要。

 その為に最も手っ取り早い方法は、自身が不幸であること、不遇であることの開示である。


「詰まるところ、俺が曲がりなりにも『中間子ネットワークの長』として認められているのは、ネットワーク内で一番不幸というわけではなくとも、その不幸に共感を示し、似たような道を歩いている存在だと認められているからだと言えます」

「……なるほど、ようやく話が見えてきた。君はその不遇さ故にネットワークを立ち上げ、同類にその座にいるに相応しいと認められている。だが、私と結婚、ないしは婚約してしまえば、その資格は喪失する」

「正解です。偉そうに言えば、今までそれなりに面倒を見てきたので、ひょっとしたら祝福はしてもらえるかもしれません。でも、今までと同じというわけにはいかない」


 俺が誰かの愚痴を聞いて、それに対し気持ちがわかると言っても、お前は婚約してるんだからいいよな、と思われることは避けられないだろう。逆の立場だったら俺だってそう思う。

 幸せを掴んだ奴が、まるで仲間のように振舞うことに嫌悪感を覚えたっておかしくない。

 しかもその理由が、ネットワークの元締めだったからなんてことが知られれば、殺されたっておかしくないとすら思う。

 今まで仲間の顔をしてきたのに、自分たちを踏み台にして抜け駆けした。

 醜悪極まりない裏切り行為だ。


「そうなれば当然、王女殿下が目論んでいる票田の確保なんて夢のまた夢。貴女はただ出来損ないと婚約をしただけで、何も得るものなどない」

「加えて、私がその結果として君との婚約を解消したりすれば、後に残るのは全てを失った抜け殻、というわけか。確かにそう言われれば、これは君にとっても私にとっても、百害あって一利なしの婚約だな」

「ご理解いただけたようで何よりです」


 中間子(おれたち)は基本的に冷めている。幼い頃から蔑ろにされ、大事な存在というのを持たないようにして来た奴がほとんどだ。人であれ、物であれ。

 誰かの軽はずみな意思一つで、瞬く間に失われることを知っているから。

 故に、裏切られたと理解したならばそれを切り捨てることに大した逡巡はない。感情的に切り捨てられないということが、いずれ自分に不利益を齎す可能性が高いことを実体験で理解している。

 それが、自分の所属している団体の長であっても同じだろう。

 少なくとも俺だったらそうする。それが正しい。俺が裏切ったなら、すぐにでも見限ってほしいと思っている。

 中間子ネットワーク(おれたち)は運命共同体であり、それでいて揺るがない『個』なのだ。


「……君が、私の来訪を心底面倒そうにしていた理由もわかった。ここで君が私の申し出を受けようが断ろうが、どちらにしろ以前の形には戻らないのがわかっていたからか」

「ですね。貴女の頼みを受ければ前言の通り、受けなければ、俺は家族に何を言われるかわかったものじゃない。それを踏まえてお聞きします――このまま帰りますか?」


 そうは言っているが、別に大した期待はしていない。

 ここまでの会話で、この王女は別に馬鹿ではないが特別賢いわけでもなく、婚約を申し込む相手について下調べもしない程度には短絡的だということが分かった。

 ならば俺の状況を好転させてくれるような機転がこの場で利くとも考えにくいし、これ以上に下手なことをされるのも御免被りたいところだ。

 ネットワークについて説明する前に署名させた『誓約書』の効果は後ろの騎士で証明されているし、余計なことをするくらいなら帰ってほしい。


「ふむ……、君に私以外の婚約者を斡旋する、というのはどうだろう」

「婿入りするほどの能力も無く、嫁を迎えるだけの地位もない。不幸にしたいご令嬢がいるなら一考の余地ありと見なしますが」

「……卒業後の職を紹介する、というのは?」

「王女推薦の無能を雇用して、期待外れだと蔑むことがない職場があるなら是非。卒業した俺から、職業選択の自由まで奪いたいというなら、ご自由に」

「…………アズラン殿を詳細に調査するのは? 言い方を選ばず言うが、彼は能力が高い人間には見えないし、叩けば埃も出そうだ」

「その結果家が潰れたら、貴女は俺を助けますか? まあ、調査すると言うなら立場的に否やは言えないので、俺から今の生活すら奪いたいなら、したいようにすればよろしいかと」


 俺が好き勝手言うと王女は腕を組んで唸り始める。我ながらちょっと意地が悪かったかね。

 背後の護衛は、剣が折れてからまるで牙でも抜かれたかのように大人しくなってしまった。右はまだ立ち直っていないようだが、左はどこか探るような視線を俺に向けてきていて、これはこれで居心地が悪い。

 おそらく、どこまで踏み込んだら『誓約違反』になるのかを探っている、のだと思う。

 まあ、わかったとて対策は不可能なので、好きなだけどうぞ、という感じだ。

 実際の所、俺は既にこの件の落としどころを決めていて、さっきの意地悪問答はどんな好条件が来ても拒絶するつもりだった。少しだけ申し訳ない。


「……思いつかないなら、お願いがあります」

「……妥協点を提示してくれるのはありがたいが、あまり大それたことは出来ないぞ、私には」

「王族にそんな恐れ多い。大したことじゃありませんよ」


 そう言うと俺は、両手の平を王女に向ける。


「――十回。夜逃げを手伝ってください」

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