3、『中間子ネットワーク』
学園、第八談話室。
談話室は番号が小さいほど豪奢な部屋になっていて、そのため予約制である形式上、家の力が強い人間ほど上の談話室を使いやすい。周囲がどうぞどうぞと譲り渡すからだ。
なんだったら恩を売るために談話室の予約を独占しようとするやつまでいるらしいが、そういう企みが上手くいった例は聞いたことがない。
第八ともなると、机と椅子があるだけのただの部屋、みたいな有り様なのだが、この部屋にいる俺たちがそれに不満を持つことは無い。そもそも第一談話室なんて入ったことも内装を見たことも無いから比較のしようがないし、こういう部屋にいることに慣れている面々だ。
防音がしっかりしていれば十分。
座れれば十二分。
二人掛けソファが机を挟んで向かい合っているという、まあ会話するためだけの部屋と言えばそういう風に見える部屋。俺たち四人はそこにいた。
お茶をサーブする侍女もいなければ、いざという時に守ってくれる護衛もいない。その辺の店で買って来た茶葉を備え付けの茶器で沸かし、適当なところで雑にカップに注ぐ。
四人の中に一人でも女子が混ざっていればもう少し丁寧に淹れただろうが、全員男子である以上、そこまで気を配る必要もない。
飲めればいい。そういう連中だ、俺達は。
「本日は時間を取っていだたいて――」
「そういう堅苦しいの、無しで行こうぜ。シャールがわざわざ連れてきたんだ、お前も同類だろん?」
俺の正面に座る男子、まだ名前も知らないが、俺の隣に座っているヴァレントが言った通り、そこまで畏まられても困る。言い方を変えれば、俺達はそういうのが面倒でつるんでいるとも言えるのだ。
なのに先輩風吹かせて委縮させたら元も子もないし、連れて来た意味もない。
まあ、事前に詳しく説明できないんだから怖がるのも無理ないかもしれないけど。『同類』という言葉に目を瞬かせる様子を見るに、本当に大した説明もせずに連れてきたらしい。
相も変わらず眠そうな顔をしながら、紅茶をズズズと飲んでいる斜め向かいのシャールをじとりと見る――無意味か。
「……とりあえず、名前と所属、あと家族構成を教えてくれるか?」
「……アマナカ・イェライ、一年三組です。家族構成は、両親と兄、それと――妹が、二人」
瞬間、どことなく俺たち三人の間に緊張感が走った。
別にアマナカを警戒したわけではなく、妹が二人いると言うのが結構な衝撃だった。今の今まで、目の前の後輩を見つけられなかったことが、俺達に嫌な強張りを与えた。
「それぞれ何歳差だ?」
「兄は三歳年上で、妹は四歳下の双子です」
双子の妹。四歳下ということは今年で十一か十二、俺達も大概だとは思うが、こいつもなかなか。今まで誰にも見つからなかったのは奇跡なんじゃないか。悪い方の。
アマナカが質問の意図を理解できないような困惑を浮かべていると、シャールが仕方ないとでも言いたげな顔で口を開く。いや、お前が連れてきたんだからある程度の責任は負わんかい。
「毎日図書室にいるから少し調べたら、どうも中間子っぽかったから連れてきたんだよ。それ以上は知らない。今初めて知った」
「また何の説明もせずに連れてきたのかよ……。まあいいや、見つけただけよくやったよ。説明は俺に任せろり。アマナカ、ここでの話は他言無用な」
困惑したまま頷く様子に満足げなヴァレント。まあ、結果がどっちに傾こうが口止めはするので今の注釈は不要なのだが、仲間意識を刷り込むために必要な手順だとかなんとか言ってたっけな。特別扱いなんかされ慣れてない奴は、意外とこういう言葉に弱かったりする。
警戒心は強いのに、警戒しなくて済む相手を求めている。
まあ、そういう客観的評価はそのまま俺たちにも跳ね返ってくるのだが。鏡だらけの部屋である。
「まずそうだな、俺達は『中間子ネットワーク』って名乗ってる。中間子を募って集るのが務めの、しがない歯牙にもかけられない、不甲斐ない腑抜けの団体だ。っていうとまあなんだか情けなく聞こえるかもだけど、これでもそこそここそこそ頑張ってるんだぜ、俺たち」
「は、はあ……」
「あ、その生返事は信じてないやつだな? ま、慣れてるけど。いらんだろうけど一応説明しとくと、俺ら的定義の中間子ってのは、兄姉、加えて弟妹がそれぞれ一人以上いる奴のことを指してる。つまりは、お前だな。そして俺たち」
その言葉に驚いたのか、俺たち三人の顔を見回すアマナカ。自分と似たような家庭環境の人間を見たのが初めてってわけでもないはずだけどな。
少なくとも、こうして学園に入学できている時点で比較的上澄みの部類だ。とはいえ、俺たちは似た境遇の連中が大勢いることを生活環境から知らざるを得なかったが、そうじゃない奴だって当然いる。
だからこそ、俺たちは今日までアマナカを発見できなかったのわけで、それに関して責める責めないの議論は全く以て無意味だ。いや、責任逃れとかじゃなく。
「ちなみに、俺は兄貴と弟がいるぜ。ってわけだから、お前の苦しみとか辛さってもんも、そんじょそこらの奴らよりも理解できるつもりだ。つまり中間子ネットワークってのは、そういう奴らの集まりなわけ。な? 怪しい集団じゃないだろ?」
「いや、怪しい集団ではあるだろ……」
ヴァレントの調子の良い発言に思わず横槍を入れてしまったが、俺たちを怪しくないというのは無理があると思う。何せ、驚くほどの秘密主義、唖然とするほどの排他主義だ。
最初からそうだったわけじゃなく、そうなりたかったわけでもなく、結果的にそうなっただけだとは言え、秘密組織染みている中間子ネットワークを怪しくないとはとても言えたものじゃない。
「――じゃ、じゃあ!」
音量の調整を失敗したのだろうアマナカは、思ったより大きな声を出した自分に驚きつつも、それでも俯くことなく、こちらを見て堂々と言った。
「ぐ、愚痴とか、聞いてもらえるんでしょうか!?」
期待と不安が入り混じった表情。俺はこの顔を何度も見たことがある。具体的に述べるなら――勧誘が成功した時とかに、よく見る顔だ。
「……好きなだけ」
苦笑しながらそう言った俺に向かって、我が世の春と言わんばかりにアマナカは破顔した。なんとなく、犬っぽいなと思った。




