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お前の気持ちがわからない。~中間と中間の場合~  作者: 甲光一念


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2、他言無用を誓って

「貴様……」


 そんな言葉と共に俺の向けられたのは明確な殺意。さっきまでとは違い、やろうと思えば確実に俺の首を落とせるだけの迫力があったが、それを片手で諫めたのは王女殿下だった。

 俺としても止めてもらわないと困る。少なくとも、俺を呼ぶのではなく訪ねてくるという王族に有るまじき行動、その目的を果たすまで俺を殺すことは出来ないだろう。

 裏を返せば、それが終わればいつでも殺せるということだが。


 それでも俺が態度を取り繕おうとしないのは、どうせこのまま会話に差し掛かれば遅かれ早かれ露呈することだからだ。だったらもう最初から晒して、緊張と緊迫を先に消化してしまおうという頭の悪い考えである。

 ここまで散々父親を馬鹿にしてきておいてなんだが、俺も別に貴族の器ではないのである。


「先ほども述べたが、私は一週間ほど前に貴方を訪ねる旨を手紙でアズラン殿に伝えた。それが貴方に届いていないのはアズラン殿の不手際だ。苦情があればそちらへ言うべきだろう」

「……ですかね。お互いに学園に通ってるんだから、何か一声あってもよかったように思いますけど」

「よかったのか? 声を掛けて?」


 よくない。今のは流石に売り言葉に買い言葉だった。

 というか、苛々していらないことを言ってしまっただけの無礼な奴だ。実際に声を掛けられれば迷惑甚だしかっただろうし、仮に手紙なんかを忍ばせるにしたって何の話も聞いていない俺はただ困惑しただけだっただろう。

 向こうもそれをわかって口にしたんだろう、にやにやとした顔で俺を見ていたので、現状では口で勝てないことはもう十分に実感した。

 一つ溜め息を吐く。これ以上喧嘩腰でもいいことないな。


「……失礼な物言い、大変申し訳ありませんでした。しかしながら殿下には、俺のこの家での立ち位置も考えて行動していただきたく思います」

「立ち位置、か。それは、私が貴方に会いに来た理由と関係している、と考えていいのか?」

「その理由とやらが、俺の考えている通りであれば、そうなります」


 今のやり取りではっきりしたことは、この王女様は俺の状況をあまり理解していないらしいということだ。さっきは、俺の現状を調べてないわけがない、と思ったが、どうもそんなことはないっぽい。失望の溜め息を飲み込む。

 酷く利己的、惨く排他的。

 たった一つの事実だけを手繰って、後先考えずに俺に迷惑を掛けに来た。勇猛って、視野狭窄の言いかえだったりするのだろうか。

 さて、どう話を進めるべきか。あんまり、俺から情報はベラベラ喋りたくない。


「……ではまず、意識の擦り合わせと行きましょうか。第二王女殿下が俺に求めるものは何でしょう?」

「婚約だ」

「…………えーと、聞きたかったのはその一歩手前ですね」


 まずいな、真面目な顔で馬鹿みたいなこと言うから本気で一瞬頭が真っ白になった。『無条件で助力しろ』か『部下になれ』くらいの用件だと思ってたけど、婚約と来たか。

 俺のたった一つの手札を、全力で奪取しに来た。

 というかあの父親、仮にも息子の婚約話を事前に教えもせず、いつも通りに帰ってきた俺を睨んでたのかよ。どういう神経してんだ。

 加えて相手が王女と来たら、常識外れもいいところだ。命知らずの方が正しいかも。

 前々から思ってたけど、俺が関わると優先順位がおかしくなるのは何なんだ。前世からの因縁でもあるのか。俺が一体、何をしたと言うのか。


「俺が聞きたいのは、何のために婚約したいのかですよ」

「……『中間子ネットワーク』。貴方が、その元締めだろう?」

「元締め……、まあ、大きく外れてはいませんけど……」


 王女様が俺に会いに来た理由は予想の通り、上でも下でもない。わかり切っていた話なので右往左往もしない。

 問題は、王女様はネットワークに干渉して一体何をしたいのか、ということ。数年前に第二王子が継承権一位に繰り上がって以降、権力争いの話は聞いたことがない。まさか自分こそが国王に相応しいなんて言い出さないだろうし、となると。


「……票固め、ですか?」

「ん、察しがいいな。知っての通り、我が家の二番目の兄は誰からも好かれる名君と言う感じではない。それに反発している者はいる。三番目の王子を、国王に押し上げようと考えている者がな」

「人当たりがいいとは聞きますけど、本人にその気は?」

「全くない。王になるくらいなら国を出るとまで言っている」


 そりゃまた。第三王子を押してる奴らはどういうつもりなのか――どっちかと言えば、第二王子を国王にしたくないんだろうな。

 知人曰く、第二王子は『思ったことをすぐ口に出す、思慮深い人間』らしい。矛盾してないかとその場で突っ込まれていたが、それでもそう言うしかないと当人は言っていた。

 『知っての通り』と言われても、俺が第二王子について知っていることなんかそれくらいだが、もしその言葉を真に受けるならば、反発する人間がいるのも止む無しではある。だからこそ、この王女は『中間子ネットワーク』という票田を抱え込んでおきたいわけか。


「…………」

「……?」


 俺は王女様の後ろに立っている二人の顔を見る。怪訝に睨み返される。当然だが見覚えは無い。会ったことのない他人だ。向こうからしてもそれは同じはずで、すなわち、この二人はネットワークに合流する立場の人間ではないということを示している。

 わざわざ接触する対象に俺を選び、誰を挟むでもなく直接訪ねてきたということは、この三人はネットワークの本質をまだ理解していない。していたら、交換条件に婚約なんてものは持ち出してこないはずなので、それは最初からわかっていた話ではあるのだが。


「……どうだろう、返答は?」

「……後悔したくないなら、やめておいた方が賢明かと」

「ふむ……。それは、この部屋から父親を追い出したことに関係するのだろうか?」


 関係はある、が、直接的ではない。遠因も遠因だ。

 父親に見えないように口だけで『邪魔だな』と王女に訴え、成功した。それはネットワークの存在も関わりも知られたくなかったからであり、王女に何かしらの協力を求められた時に断りを入れるのが難しくなったはずだからだ。

 俺を金に変換できるなら特に躊躇うことが無いだろう父親の存在は、あまりにも煩わしかった。ここでどのような会話をしたにせよ、後で面倒なことは確実なので今からすでに気が重いのだけれど。


「いえ、それとこれとは別問題です。……他言無用を誓ってもらえますか?」

「内容によるな」

「中間子ネットワークについて。詳しく、説明しましょう」


 俺と十秒ほど目を合わせた王女は、短く答えた。誓おう、と。

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