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待ち合わせ場所は志保の住むアパートの最寄駅から二駅離れた駅だった。
時間ピッタリに駅に着くと、そこには既に周囲の視線を集める直哉の姿があった。
「おはよう、厚木さん」
「……おはようございます」
すると直哉がこちらをまじまじと見てくる。
その視線は頭のてっぺんからつま先に移動して、再び顔に目線が戻ってきた。
「な、何ですか?」
「一応これデートだよね?」
「仮に私と黒潮さんが友達だったとして、友達と出かけることをデートとは言いませんから」
「なるほど。にしてもいつも通りすぎないかな」
「何がですか?」
「服装だよ」
志保は自分の服を見る。
普段大学に着ていく服と全く一緒。
着慣れたシャツとスラックスだ。
「べ、別に普通ですよね?」
指摘されるとどうしても気になってしまう。
「そこが問題なんだけどね。あんまりオシャレに興味ない?」
志保は痛いところを付かれた様な顔をした。
「別に興味がないわけじゃないですけど……」
「けど?」
「分からないんです、そういうの。流行の服とかメイクとか、今時の人ってどうやって勉強しているんですかね」
直哉は人間味のある苦笑いを浮かべた。
「厚木さんも今時の人に含まれると思うんだけど……まあ、最近はスマホが主流じゃないかな」
「でも他の人が着ている服が自分に似合うかどうかは分かりませんよね?」
すると直哉は顎に手を当てて考えるそぶりを見せた。
「うーん」
そして何かひらめいた様子だ。
「よし、じゃあ今から服を見に行こう」
「え? 今日は映画見に行くって……」
「映画はいつでも見られるから。それに厚木さんも興味のない映画を見るなんて退屈でしょ?」
どうやら志保の思っていることは直哉に筒抜けらしい。
「決まりだね」
志保と直哉は予定を変え、洋服を見に行くことにした。