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勉強一筋だったため交際経験も無く、当然告白されたこともなかった。
まさか人生初の異性からの告白が、AIからだとは思わなかったが、そもそもあれを異性と言って良いのかも微妙な所である。
週明けの月曜日。二限目に入っていた必修科目の第一言語の講義を終え、講義室を出たタイミングだった。
「厚木さん」
「げ……」
そこには待ち伏せしていたかのように直哉の姿があった。
いや、実際待ち伏せしていたのだろう。
志保はあからさまに顔をしかめた。
対して直哉は全く気にした様子はない。
「厚木さん、お昼ご飯一緒にどうかな?」
「……は?」
一緒に行くと言った事に対してもそうだが、そもそもAIに食事という行為が必要なのかが疑問だった。
「黒潮さんも食べるんですか?」
「うん、食べるよ。AIにとっても必要な作業だからね」
「は、はあ……」
仕組みは全く分からないが、とりあえず必要ということらしい。
断るタイミングを失った志保は、仕方がなく直哉と食堂へ向かう。
お昼時の食堂は既に長蛇の列ができていた。
列に並んでいるとやたらと視線が集まった。
原因は直哉だ。
「ねえ、あの人カッコ良くない?」
「ホントだ」
口々に彼の容姿を褒める。
そして次にぎょっとする。
「え、AI!?」
「ウソ!?」
顔が整っているだけでも十分注目を集める要素な上、AIだというのだから尚更だ。
直哉は気にする様子はなく、むしろ笑顔を振りまいていた。
それからしばらくしてようやく定食を注文して、席に着くことができた。
視線は相変わらず多いが、諦めるしかない。
正面に座る直哉は、礼儀正しく手を合わせてから定食に口を付けていた。
(本当に食べてる……)
くうっと志保のお腹が小さく鳴った。
志保も手を合わせてから、定食の味噌汁に手を付けた。
「それで、お付き合いの返事は決まった?」
ぶはっと口から味噌汁が出た。
けほけほと咳をする志保は睨むように直哉を見た。
「その話、今しますか?」
「うん。だってこの前はすぐに返事くれなかったから」
「いや、だからって今日聞きます?」
「だったらいつ答えてくれる?」
志保は深くため息をついた。
箸を置いて、少し睨みつけて答えた。
「じゃあ言わせてもらいますけど、私は黒潮さんと付き合う気はありませんから」
志保の答えに、直哉は動じない。
直哉は顎に手を当て、考えるそぶりを見せる。
「うーん、なるほど。じゃあ、友達からってことだね」
「は?」
「付き合うのが無理なら、友達って思うんだけど違った?」
「いや……」
違うとも断言できず、志保は言葉に迷う。
すると直哉は淡々とスマホを触り、何かを確認し始めた。
「来月のシフト、もう店長に出した?」
「まだですけど……」
「来月の頭の土曜日、一緒に出かけよう」
「ちょ、ちょっと待ってください。いきなりそんなこと言われても……」
「だから確認してるんだけど? 予定あるの?」
「……無いですけど」
「じゃあ決まりだ」
志保の口から今日何度目かの深いため息が漏れた。