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大学生活が始まり、早一か月。
高校生活とは全く違う学生生活は驚きの連続だ。
講義では寝ている学生がいたり、出席した途端に講義室を出ていく生徒もいる。
とにかく大学は自由なのだ。
服装も、髪型も、何もかも。
自分を開示することが苦手な志保は、徐々に学科でも孤立していった。
課題に取り組むのも、学食で昼食をとるのも、移動するときも常に一人。
それ自体に志保は危機感は無かった。
むしろ望んで一人になった節さえある。
しかしある日、志保は大きな問題に直面した。
「講義室……どこ?」
履修した科目の講義室が分からなかった。
大学の敷地は、高校とは比べ物にならないくらい大きい。
目当ての教室が全て同じ建物とは限らない。
履修した科目によっては、授業の間の十数分の間に数百メートル離れた建物にある講義室に移動しなくてはならないのだ。
あと数分で講義が始まってしまう。
誰かに声をかけようにも、誰に声をかければ良いか分からない。
その時だった。
「厚木さん?」
振り返ると、そこに立っていたのは直哉だった。
「黒潮さん……」
正直、気まずかった。
「凄い慌ててるみたいだけど、何かあった?」
「あ、えっと……講義室が分からなくて……」
「え、それは大変だ。ちなみに科目は?」
「現代社会論です」
「ああ、それならこっち。急ごう!」
「え、ちょっと!」
直哉は志保の手を取って小走りになる。
一度建物を出て、渡り廊下を進む。
そして別の建物の二階へ。
チャイムが鳴ると同時に講義室に辿り着いた。
「間に合ってよかった。現代社会論の教授は時間に厳しいからさ」
「あ、えっと……」
志保が言い淀む。
「じゃあ、またバイトで。講義頑張って」
そう言って、直哉はその場を去っていった。
その後志保は問題なく講義を受けることができた。
しかし心の中はもやもやして、中々講義に集中できなかった。